YSQ 「感染性心内膜炎(IE)に対する手術とその他の開胸手術では胸骨骨髄炎の術後合併率に差があるか。」
序論
私の担当患者はAVR(大動脈弁置換術)・MVP(僧帽弁形成術)・CABG(冠動脈バイパス術)を施行された後に胸骨骨髄炎を起こした。この患者では開胸手術時に胸骨切開したことで外的に病原菌が侵入したことが直接的な原因と考えられているが、IEのような菌血症が背景にあるような疾患に対する術後では胸骨髄膜炎の発症率が一般の開胸手術と比べてどのようになるのかについて調べた。
本論
ハリソン内科学第5版によると、胸骨骨髄炎は一般的には胸骨の手術(外的な病原菌の侵入)によって起こり、血行性の播種によるものや、隣接する胸肋関節炎から拡大することはまれである。血行性(一次性)の胸骨骨髄炎はすべての骨髄炎症例のわずか0.3%である。
Cayci Cらは1997年から2003年の間に心臓血管手術を受けた7978人を後ろ向きに分析し、心臓手術後の胸骨骨髄炎に関連する危険因子を特定することを目的とした研究を行った。7978人のうち骨髄髄膜炎を発症した患者は123人であった。BMI>30(オッズ比 1.6 95%信頼区間1.1~2.4)、糖尿病(オッズ比2.4 95%信頼区間1.6~3.4)、緊急手術(オッズ比1.7 95%信頼区間1.2~2.6)、過去1年以内の喫煙歴(オッズ比2.7 95%信頼区間1.5~4.9)、過去2週間の喫煙歴(オッズ比2.6 95%信頼区間1.5~4.5)、脳卒中の既往歴(オッズ比1.9 95%信頼区間1.1~3.1)が危険因子として挙げられた。危険因子の中に感染性心内膜炎に対する手術という項目は含まれていなかった。
結論
今回、感染性心内膜炎の手術とその他の開胸手術における胸骨骨髄炎の術後合併率の差について記載された文献を見つけることができなかった。ただし胸骨骨髄炎は血行性に発症することがまれで、手術時の胸骨操作時に胸骨に菌が侵入して発症することがほとんどであるという事実から、私が立てたYSQに対する答えとして「差がない」という仮説を立てることができる。しかし、これはあくまで仮説なのでこの仮説を検証する臨床研究が必要である。
参考文献
ハリソン内科学第5版
Cayci C, Russo M, Cheema FH, Martens T, Ozcan V, Argenziano M, Oz MC, Ascherman J (2008) “Risk analysis of deep sternal wound infections and their impact on long-term survival:a propensity analysis.”, Ann Plast Surg. 2008 Nov;61(5):520
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