YSQ:『新生児剥奪性皮膚炎はどのような起序により発症するのか』
新生児剥奪性皮膚炎(Ritter病)は黄色ブドウ球菌の産生する表皮剥奪性毒素(ET)が新生児の血中に流入し、全身の皮膚が熱傷様に剥離するまれな疾患である。黄色ブドウ球菌自体は多くの成人が有する一般的な菌であるが、何故それらの毒素により新生児剥奪性皮膚炎を発症する新生児と発症しない新生児に分かれるのだろうか。新生児への黄色ブドウ球菌の感染経路、発症の起序とに分けて以下に考察する。
◎新生児への黄色ブドウ球菌の感染は垂直感染よりも水平感染によって起こる
Jimenez-Truque N., Tedeschi Sらは、膣内のS.aureusのコロニーによる出産時の児への垂直感染よりも、出産後の母体と新生児との触れ合いによる水平感染の頻度の方が圧倒的に高いと報告している。また新生児がMRSAのコロニーを有することは一般的であるが、その中でもUSA300、SCCmecⅠⅣ、PVL-positiveMRSAなど一部のMRSAの種類のコロニーの頻度は低かったため、新生児のブドウ球菌関連の疾患発症の際は全ての種類のMRSAに対してではなく、それら一部の種類に対して対策していくことが重要であるとしている。
よって今回の担当患者のように妊娠中にMSSAの菌血症を発症した症例においても、児への垂直感染による新生児剥奪性皮膚炎発症のリスクは低いと考えられる。
◎未熟児において新生児剥奪性皮膚炎発症のリスクが高い
そもそも新生児剥奪性皮膚炎はSSSS(ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群)が新生児に発症したものを指すが、SSSSの発症数のうちおよそ80%は新生児が占めている。その理由としてETは腎臓にて排泄される毒素であり、新生児はまだ腎機能が完璧でないことや、免疫機能が未発達であることがあげられる。そのことは成人においても同様に、年齢や性別関係なく腎不全患者や免疫不全患者にSSSS発症のリスクが高いことからも裏付けられる。
また未熟児はよりそれらの機能が未発達であることや、産後NICUに入り母児接触はない一方で医療従事者からの感染により発症する危険性も考えられ、十分に注意が必要と考えられる。
参考文献
・Jimenez-Truque N., Tedeschi S.et al. Relationship between maternal and neonatal Staphylococcus aureus colonization. Pediatrics. 2012;129(5):e1252–e1259. doi: 10.1542/peds.2011-2308
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。