献本御礼。Medicinaにだす書評を許可をいただきこちらにも転載。
「ホワイトライオンも追え!」を追え!
私は変わった主訴の患者さんが大好きだ。
なぜなら、考えてしまうからである。「なんでこの患者さんはこういう訴えをするんだろうか」と。
「いわゆる」不定愁訴の患者のことではない。「いわゆる」不定愁訴を持つ患者のはむしろ定型的だ。「変わった主訴」を持たない。判で押したように似通った主訴で受診される。「お腹の中を寄生虫が這い回っている」とか「風俗にいったあとで体調が悪い」とか「ワクチンを打ったあとで体のあちこちが痛い」とか。
「あれ?」と思う主訴はやはり個性的だ。「最近、顔の表情が険しくなった」(<ーバセドウ病でした)、「頭の中が急に真っ白になった」(<ー脳出血でした。CTとったら本当に白かった)、「俺はものすごく頭が良い超エリートのハーヴァードの研究者なのに最近忘れっぽくなった」(<ー最初は単に変わっている嫌味なアメリカ人と思ったら、西ナイルウイルス脳炎だった。ま、性格は変わっていたと思うが)、などなど。「なぜ、そんな主訴なの?」とはてなマークがつく主訴。なんとか原因を突き止めたい。患者の訴えの原因を突き止めるのは、誤解を恐れずに申し上げるならば大きな快感である。診断が患者の快癒を導けばなおさら嬉しい。
珍しい病気ばかりを狙って斜め上のワークアップを繰り返すのは、珍しい病気ばかりを連呼する症例検討会みたいで、今ひとつな姿勢だと思う。いつもはコモンな病気を念頭に置いて診療する。当然である。しかし、コモンな病気のことしか考えないのもバランスが悪い。「個性的な患者」が出現したとき、うまく対応できなくなる。コモンな病気への対応。でも、シマウマのことも頭のどこかに置いている。右にも行けるが、左にも行ける。前にも進めるし後ろにも引ける。武道の達人というか、医療におけるアンドレス・イニエスタというか、まあどのくらいたとえ話が伝わるかはよくわからないけれど、そのような「重心がどこかにのめり込んで自由が効かない状態」を回避したい。そう思っている。
本書はホワイトライオンを追え、という本ではない。ホワイトライオン「も」追え、という本だ。白いライオンが現れたときに、頭真っ白になって思考停止に陥らないように。なんでもそうだが事前の準備は大事なのだ。事前のメンタル・トレーニングとして本書はすべての外来診療医が読んでおくべき「重心のバランスをとる」本だ。
それにしても、知らない病態や知らない病名はたくさんあるものですね。いろんな病気がある。いろんな臍がある(本文参照ください)。いろんな色がある。あと、どうでもいいですが、爪が黄色くなったときの鑑別診断が「黄色爪症候群」なのは、どうなの?しかも、対立仮説はない。そこ、どうなの?テレビに向かって「あんた、なにやってんの?」と、しゃべりつづける主婦よろしく、みなさんも本書を読みながら、「そこ、どうなの?」とツッコんでみてください。楽しいですよ。
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