E. Faecalisによる感染性心内膜炎の治療では、アンピシリン+ゲンタマイシンとバンコマイシン+ゲンタマイシンで予後に違いはあるか
Clinical Question
E. Faecalisによる感染性心内膜炎(以下IE)の治療では、アンピシリン(ABPC)+ゲンタマイシン(GM)とバンコマイシン(VCM)+ゲンタマイシン(GM)で予後に違いはあるか
Introduction
Enterococciに対する抗菌薬治療は、E. FaecalisによるIEの抗菌薬治療は、細胞壁合成阻害作用をもつ薬剤(ペニシリンやABPCまたはVCM)とアミドグリコシド系(GMなど)の併用が主流である。E. FaecalisによるIE治療でのABPC+GMとVCM+GMの効果について比較試験がなかった。そのため、E. Faecalis治療についてABPCとVCMの効果比較とシナジー効果について検討し、間接的ではあるが治療効果の差についての予測を立てた。
Body
β−ラクタム剤(ABPCなど)に感受性の菌に対してVCMの性能は劣り、腸球菌にたいしてもVCM耐性腸球菌(VRE)でなければ有効であるが静菌的にしか働かない。具体的には最小発育阻止濃度(MIC)に対して非常に最小殺菌濃度(MBC)が高い。この場合(腸球菌がGM耐性でなければ) GMとの併用で殺菌的に作用する。VCMの適用状況は基本的には、β-ラクタム剤耐性グラム陽性球菌感染症とβ-ラクタム剤アレルギーの症例である。一般にVCMの使用の30~80%は不必要、不適切とされる。(1)
Dresselらは、ABPCのMICが1~2μg/mlであるE. Faecalisを、GMのMIC ≤500μg/mLの群、500μg/mL ≤MIC ≤2000μg/mLの群、2000μg/mL <MICの群 の3群に分け、各10株の合計30株を準備した。この株を1×107個培地に撒き、各群に対して、ABPC(1/2MICの濃度)−GM (2μg/mL)併用剤とABPC(1/2MICの濃度)単剤を入れた。24時間後、MIC ≤500μg/mLの群では、併用剤を用いた7/10株で、単剤を用いた方と比較して100倍以上菌量が減少した。500 ≤MIC ≤2000μg/mL群、2000μg/mL <MIC群 では、併用剤を用いても、単剤を用いた場合と菌量に違いはなかった。以上より、in vitroにおいて、GMのMIC が500μg/mL以下のE. Faecalis株に、ABPCとGMの併用を行うとシナジー効果が確認され、MIC500μg/mL以上の株ではシナジー効果がみられなかった。(2)
Bakieらは、in vitroでのVCM単剤およびGM−VCM併用剤を腸球菌株に加えた。VCM (10 or 20μg/mL)では、6時間、24時間、48時間で生存腸球菌の優位な減少はなかった。GM –VCM併用剤は、41の腸球菌株に加えた。GM 4μg/mL とVCM 10μg/mLでは、6時間後では41/41、24時間後では39/41、48時間後では40/41で、GM 4μg/mL –VCM 5μg/mLでは6時間後では41/41、24時間後では38/41、48時間後では39/41でシナジー効果が示された。
Conclusion
ABPCはVCMよりもE. Faecalisに対して殺菌作用が強い。またABPC、VCMはいずれもGMと併用することでE. Faecalisに対してシナジー効果をもつ。このことから間接的ではあるが、E. Faecalisによる感染症治療ではABPC+GMの方がVCM+GMンよりも治療効果が高いと予想され、感染性心内膜炎でも同様の治療効果が予想される。
Reference
(1)レジデントのための感染症診療マニュアル第3版 青木眞
(2) Dressel DC et al. Synergistic Effect of Gentamicin Plus Ampicillin on Enterococci with Differing Sensitivity to Gentamicin: A Phenotypic Assessment of NCCLS Guidelines.
(3) CHATRCHAI WATANAKUNAKORN AND CHERYL BAKIE et al. Synergism of Vancomycin-Gentamicin and Vancomycin-Streotomycin Against Enterococci ANTIMICROBIAL AGENTS AND CHEMOTHERAPY, Aug. 1973, p. 120-124
寸評 良いテーマでしたが、ちょっとうまく行きませんでしたね。
コメント
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