感染症レポート
食道穿孔後の縦隔炎への治療期間はどのぐらいか
今回担当した患者はXXX食道穿孔後の治療期間について考察する。
食道は縦隔にあり穿孔すると縦隔炎をきたす可能性があり,診断が遅れると死亡する可能性もある。成因によらず,食道破裂,裂孔が生じた場合には縦隔内限局型か,胸腔内穿破型かを診断する必要がある。縦隔内限局型では禁飲食,経鼻胃管挿入,抗菌剤投与,胸腔ドレーンなどの保存的治療を行う。Cameronによると1),保存的治療の適応は,重大感染徴候がない,破裂による汚染度が低い,縦隔内に限局している,ドレナージが有効性を示すことが挙げられている。胸腔内穿破型では外科的治療の適応である2)。経胸的アプローチ,または腹部アプローチ,破裂創の一期的閉鎖,大網を用いた被覆術,洗浄とドレナージを行う。また臓器不全が起こっている場合は全身管理として人工呼吸器管理や持続濾過透析などの集中治療管理を必要に応じて行う。
食道破裂,穿孔に対して縦隔炎が起こった7例に対し,在院日数と予後を分析した3)。
縦隔炎のみの合併の2例では,治療までの期間は14h,48hで,在院日数はそれぞれ39日,17日で平均28日であった。縦隔炎とMRSAを合併した場合の4例において,治療までの期間は15h,8h,98h,96hで,在院日数は108日,104日,10日(死),58日で,死亡例を除き,平均90日であった。死亡例は敗血性ショック,膿胸,DICを合併していた。縦隔炎,膿瘍,DIC,敗血性ショックを合併した1例では,治療までの期間は数日以上で,在院日数は47日であった。治療方法としては,ドレナージは全例で行い,初回発症の症例6例について補強として大網被覆術を追加した。そのうち5例に食道穿孔部にTチューブドレナージを施行した。
これらのデータから,治療までの期間が長くなると合併症の確率が上がり,致命的な敗血症性ショックを引き起こすことがあること,MRSAを合併すると在院期間は長くなることが分かる。
今回取り上げたのは7例で,縦隔炎のみの場合は平均28日,縦隔炎にMRSAを合併した場合は平均90日であった。以上のことから,早期発見により合併症を予防することが治療期間を短くするのに重要であると考えられる。
参考資料
- Cameron JL, Kie er RF, Hendrix TR, et al: Selective nonoperative management of contained intrathoracic esophageal disruptions. Ann Thorac Surg 1979; 27: 404─ https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/110275
- 松谷毅,野村務,他:食道破裂,穿孔の検討. 日本腹部救急医学会雑誌2015; 35: 61-65.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaem/35/1/35_061/_pdf/-char/ja
- Murao Yosinori, Maruyama Katunori, et al: Evaluation and Treatment of Esophageal Rapture and Perforation. Journal of abdominal emergency medicine 2015; 35: 35-41.
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千野 修,幕内博康,島田英雄,他.早期食道癌に対 する EEMR-Tube 法施行時の出血・穿孔・狭窄.消化 器内視鏡 2003;15(10):1338-1340
畑 敦,伊良部真一郎,宇田川郁夫:保存的治療に て治癒した重症特発性食道破裂の 1 例.日臨外会誌 2012;73:2524─2528.
寸評 因果の逆転を考えましょう、という話でした。
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