腹水培養から出た菌はすべてカバーしなければならないのか?
1990年に行われた臨床研究によると、虫垂穿孔115例、十二指腸63例、結腸20例、小腸18例、胃13例に対して小腸では72.2%、虫垂は94.8%と肛門側に向かうほど細菌陽性率が高率になり、結腸では全例の腹水から細菌が分離された。全体としてはグラム陰性の好気性菌が44.6%と多く,菌種別ではE-coliが102株と最も多かった。嫌気性菌の占める割合は38.2%であった。小腸・虫垂・結腸穿孔では分離菌の大半をグラム陰性桿菌が占め,なかでもE.coliとB.fragilisの分離頻度が高くなっていた。術中の腹水から分離された細菌に対する各種薬剤の抗菌力を検討するとE.coliおよびKlebsiella spp.に対しては第2世代以降のセフェム剤とアミノ配糖体は良好な抗菌力を示している。P.aeruganosaではアミノ配糖体とpiperacillin(PIPC),cefoperazone(CPZ)が比較的良好な抗菌力を持っているが他の薬剤には耐性であった。B.fyagilisは全体に耐性の傾向が認められるが,lincomycin(LCM)とlatamoxef(LMOX)には比較的感受性を示している。下部消化管穿孔はE.coliやB.fragilisをはじめとする好気性および嫌気性のグラム陰性桿菌が主体となる3細菌性腹膜炎である。菌量も多く,また混合感染の頻度も高い。この混合感染においては,病巣に存在する病原性の強い起炎菌に対し良好な感受性を示す薬剤が投与されていても,同時に存在する他の細菌が病巣中でβ-lactamaseを産生していると,薬剤が不活化されて抗菌力を発揮できない場合があり注意が必要である。したがって菌検索の結果が出ていない治療開始時においては,まずE.coliを主体とする好気性グラム陰性桿菌と嫌気性菌との混合感染を十分考慮する必要がある。
しかしそれに対して例えば腸球菌は病原性が低く、軽中症患者に抗菌スペクトラムを広げることは菌の耐性化を招き、重症患者にたいして重大な影響を及ぼす恐れがあり避けなければならない。
また、手術や粘膜損傷などがあると好気性になり好気性菌が増えるが、その中でも大腸菌数がかなりある。そこで抗菌薬治療を行うと大腸菌が減ってきて、今度は嫌気性菌が増える、そのような2相性を示すと言われている。つまり、大腸穿孔でも最初から嫌気性菌を狙う抗菌薬を使わなくてもいいという可能性も出てくる。ただ、これについての論文を探すことができなかった。
以上より必ずしも培養から出たすべての菌のカバーを行う必要はないと考えたが、具体的にどういった菌に対してはカバーが必要でどういった菌に対してカバーが必要でないかについての文献は発見できなかった。
参考文献
穿孔性腹膜炎における細菌学的検討と抗生物質の選択;真下啓二, 石川 周, 品川長夫, 由良二 郎
Solomkin JS, Mazuski JE, Bradley JS, Rodvold KA, Goldstein EJC, Baron EJ, et al. Diagnosis and Management of Complicated Intra-abdominal Infection in Adults and Children: Guidelines by the Surgical Infection Society and the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis 2010;50(2):133–64.
1978 Jul;113(7):853-7.A review. Lessons from an animal model of intra-abdominal sepsis.Bartlett JG, Onderdonk AB, Louie T, Kasper DL, Gorbach SL.
寸評 なかなかいいテーマでしたが、それゆえ議論が難しくなりましたね。
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