注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、火曜日のお昼まで、5時間かけてレポート作成します。水曜日などに岩田がこれに講評を加えています。2019年2月11日よりこのルールに改めました。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、間違いもありますし、個別の患者には使えません。レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
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BSL 感染症内科レポート
相対的徐脈は薬剤熱の診断に有用か
薬剤熱とは、身体検査や基礎研究を行なった結果熱の原因として確定されるものが他にない場合に、薬物投与に伴って発症し原因薬物の投与中止で消失する熱と定義される1。特徴としては緩徐発症で38℃台までの発熱であることが多い。また熱の割に比較的元気,比較的徐脈(相対的徐脈),比較的CRP高値といった症状がみられる2。被疑薬の頻度としては一般的に抗菌薬(ペニシリン,セファロスポリン,ST合剤,アムホテリシンB),抗てんかん薬(フェニトイン,バルビツレート),IFN,ブレオマイシン,メチルドパ,アトロピン,抗不整脈薬(プロカインアミド,キニジン)は薬剤熱をきたしやすいと考えられている2。一方、一般的に体温が1℉(0.56℃)上昇すると心拍数は約10回/分上昇する。この体温上昇に伴う心拍数の変化が1℉あたり10回/分未満である状態を相対的徐脈という3。一般的に相対的徐脈は腸チフスやツツガムシ病などでみられる4。相対的徐脈が本当に薬剤熱の鑑別に有効であるか調べてみた。
Yaitaらにより行われた研究では2014年4月から2015年5月の間に388人の患者が感染症科医の診察を受けた。16人が薬剤熱と診断され、このうち相対的徐脈がみられたのは14人であった。この研究では相対的徐脈の有病率が87.5%とかなり高く出ている。この母集団である患者16人の薬剤熱の原因としてはバンコマイシン(3人),テイコプラニン(2人),ピペラシリン/タゾバクタム(2人),アンピシリン/スルバクタム(1人),セファゾリン(1人),セフトリアキソン(1人),被疑薬の2剤同時中止により原因薬剤不明(6人)であった5。
一方でMackowlakとLeMaistreはダラスの病院の記録と英語で書かれた過去の文献から薬剤熱の症例148件を調査した。そのうち相対的徐脈をきたしていた症例は11%(9例)であった。この母集団である148症例の薬剤熱の原因薬剤としてはαメチルドーパ(16例)とキニジン(13例)が最多であり、グループとしては抗菌薬が最も多かった(46例)1。
2つの研究から得られる薬剤熱患者の相対的徐脈の割合は相反する。その原因として母集団の原因薬物の分布や患者背景が異なることが挙げられる。Mackowlakらの研究は一般薬剤を含む薬剤投与下で薬剤熱をきたし、アメリカでの症例と英語で書かれた過去の文献内の症例で行われた。他方、Yaitaらの報告は日本の単一施設での報告ではあるが、原因薬剤の多くが抗菌薬であったことが相対的徐脈の頻度に影響していたのではないかと考える。
一般薬剤投与下で相対的徐脈がある場合の発熱を薬剤熱と診断するのは難しいだろう。しかし抗菌薬投与下で感染症は臨床的に落ち着いているにも関わらず相対的徐脈があり発熱が続いていれば薬剤熱を鑑別する手がかりとなるかもしれない。
引用出典:
1. Mackowlak PA, LeMaistre CF. Drug fever: a critical appraisal of conventional concepts. An analysis of 51 episodes in two Dallas hospitals and 97 episodes reported in the English literature. Ann Intern Med. 1987;106(5):728-733.
2. 上田剛士 日常診療に潜むクスリのリスク 医学書院 2017
3. Mittal J, Estiverne C, Kothari N, Reddi A. Fever and Relative Bradycardia: A case Presentation and Review of the Literature. Int J Case Rep Short Rev. 2015;1(1):004-008.
4. Fan Ye, Hatahet M, Youniss MA, Toklu HZ, Mazza JJ, Yale S. The Clinical Significance of Relative Bradycardia. WMJ. 2018;117:73-79.
5. Yaita K, Sakai Y, Masunaga K, Watanabe H. A Retrospective Analysis of Drug Fever Diagnosed during Infectious Disease Consultation. Intern Med. 2016;55:605-608
寸評:テーマも面白かったし、よく調べたとも思います。
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