注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、火曜日のお昼まで、5時間かけてレポート作成します。水曜日などに岩田がこれに講評を加えています。2019年2月11日よりこのルールに改めました。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、間違いもありますし、個別の患者には使えません。レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
YSQ.特発性細菌性腹膜炎の診断、重症度に対してCRP、PCTは有用となるか?
今回担当した症例では、特発性細菌性腹膜炎(SBP)疑いで治療されていた。調べていく内に、SBPの診断基準が腹水内の細菌の検出、好中球数の増加であること1が分かったが、他に評価する項目、あるいは重症度を判定する基準はないのかという疑問を持ったので、SBPとCRP、PCTの関係に注目して調べてみた。
Yangらの研究2では1827人のSBPのみが診断された患者に対してPCTの感度、特異度は0.83(95%CI:0.76-0.89)、0.92(95%CI:0.87-0.96)であった。(PCTのカットオフ値は血清:0.42-13.7ng/ml、腹水:0.3-10ng/ml)陽性尤度比は11.06(95%CI:6.31-19.38)、陰性尤度比は0.18(95%CI:0.12-0.27)であった。診断オッズ比は61.52(95%CI:27.58-137.21)だった。受信者動作特性曲線下面積は0.94であった。CRPを測定した研究では血清PCTを上回る結果は得られなかった。またPCT>0.58ng/mlの肝硬変患者はPCT<0.58ng/mlの患者と比べ生存率が低かった。
Gongらの研究3では腹水症の77人(SBP:45人、非SBP:32人)と健康な人28人を対象にヒト好中球ペプチド(HNP)、PCT、CRPの診断値を比較している。3つのグループにおいてWBC数に有意差はなかった(6.01±2.25) × 109/L, (4.85±1.94) × 109/L, (5.49±1.76) × 109/L; F =2.91,P> 0.05)。しかしSBP群は他のグループに対してHNP、CRP、PCTの上昇を認めた(HNP (9.99 ± 3.33) ng/ml and (8.92± 2.30) ng/ml vs.(17.66± 6.40) ng/ml; q =3.20 vs.3.52,P < 0.05), CRP(15.08± 9.95) ng/ml and (5.96 ± 2.91) ng/ml vs.(31.32 ± 18.65) mg/L; q =11.03 vs.3.69,P < 0.05), PCT (25.0% and 10.0% vs.62.2%;22 =10.41 vs.15.40,P < 0.0125)。SBPの診断のための感度、特異度はHNP(71.1%,71.9%)、PCT(62.2%、75.0%)、CRP(73.3%,56.3%)であった。
以上のことよりPCT、CRPはSBPを診断すること、および治療経過、予後予測を評価することの指標にはなり得、PCTはCRPよりも有用であると考えられる。しかしガイドラインで定められた菌の検出、好中球数の増加と比較して特に有意義な指標になり得るという結果は見つけることができなかった。そのためSBPが疑われる場合は菌の検出、好中球の増加や各種検査により診断し、PCT、CRPは経過を評価する基準の一つとすることがよいと考える。
参考文献
1.日本消化器病学会肝硬変診療ガイドライン2015(改訂第2版)
2.Yang SK, Xiao L, Zhang H, Xu XX, Song PA, Liu FY, Sun L1. Significance of serum procalcitonin as biomarker for detection of bacterial peritonitis: a systematic review and meta-analysis. BMC Infect Dis. 2014 Aug 22;14:452. doi: 10.1186/1471-2334-14-452.
3.Gong YX, Cui SN, Li L, Wang MM, Guo N. Diagnostic value of human neutrophil peptide in spontaneous bacterial peritonitis. Zhonghua Gan Zang Bing Za Zhi. 2013 Dec;21(12):944-8. doi: 10.3760/cma.j.issn.1007-3418.2013.12.014.
これも分類の問題。SBPは、普通のペリトナイティスと同じに扱ってよいか。学生としては難しい命題ですね。経験値はやはり大事なのです。
コメント
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