注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
緑膿菌の耐性化のしやすさは各抗菌薬によってどの程度違うのか?
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は様々な薬剤に対して耐性を獲得しやすいグラム陰性桿菌である。私の担当患者は緑膿菌保菌疑いに対して治療が行われた経緯があり、今後緑膿菌が耐性化して抗菌薬治療が難しくなる可能性がある。私は緑膿菌の各抗菌薬に対する耐性化はどの程度異なるのか疑問を持ったので以下に考察していきたいと思う。
2009年~2010年におけるNHSN(全米医療安全ネットワーク)による報告によると耐性を持つ緑膿菌は全体のうちアミノグリコシド系で6%から10%、広域スペクトラムセファロスポリンで10%から28.4%、フルオロキノロンで17%から33.5%、カルバネムで11%から30.2%、ピペラシリン+タゾバクタムで6.8%から19.1%に増加した。また多剤耐性緑膿菌は緑膿菌全体の5.3%から17.7%に増加した。さらには1989年~2006年における長期研究によるとイミペネムに対し耐性を持つ菌は13%から20%へと増加した。1)
またNoteboomらが277人の緑膿菌患者に対し患者100日あたりの耐性獲得率を調べたところ、カルバペネムの使用は、耐性獲得と最も関連があった(adjusted hazard ratio, 4.2 ; 95%CI:1.1-15.6)。ちなみに本研究における他の薬剤のデータは次の通りである。セフタジジムは(adjusted hazard ratio, 1.5 ; 95%CI:0.6-3.5)、シプロフロキサチンは(adjusted hazard ratio, 2.3 ; 95%CI:0.8-6.0)、コリスチンは(adjusted hazard ratio, 2.1 ; 95%CI:0.4-10.1)、アミノグリコシドは(adjusted hazard ratio, 1.5 ; 95%CI:0.5-4.1)、ピペラシリン+タゾバクタムは(adjusted hazard ratio, 1.0 ; 95%CI:0.1-15.6)である。2)
2009年~2010年にかけてのNHSNのデータは、各抗菌薬同士を比較し分析したわけではなく本命題の答えにはならない。Noteboomらによるとオランダにおける大学病院および市中病院の異なる時期のICU患者を対象としたため可能性は限りなく低いが、P.aeruginosa分離株の遺伝子型判定が行われなかったため、水平伝播した可能性を否定できないとされている。しかしこの論理には低コストで迅速に結果を知ることができるRAPD-PCR法などを実施して遺伝子型判定が行われた時に水平伝播をどの程度除外できるのかということに対する言及がなされていないという問題がある。よって得られた知見は参考程度に留めるべきである。
【参考文献】
1)Mandell, Douglas, and Bennett’s :『Principles and Practice of Infectious Diseases』Eight edition 2520頁〜2522頁
2)Noteboom ,et al: Antibiotic-Induced Within-Host Resistance Development of Gram-Negative Bacteria in Patients Receiving Selective Decontamination or Standard Care. Crit Care Med 43(12):2582-8 , Dec 2015
寸評:これはまあ、失敗しているレポートなのですが、そのぶん学びは大きかったと思います。
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