注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSLレポート
【混合感染による腹腔内感染症患者において腸球菌の病原性がどの程度関与するのか】
腹腔内感染症において腸球菌は混合感染の原因の一部であるが、腹腔内感染症の病態にどのように関わっているかは、いまだ結論が出ていない。1)
A.Sitgets-Serraらが1994年から1999年にかけて行った前向き縦断観察研究では、感染合併症(分離群: 27/42, 非分離群: 68/158, p=0.01)が、術中腹水検体における腸球菌分離群に、有意に認められた。また観察期間内の死亡率に関しては、術後血液培養にて腸球菌が分離された群は、患者の死亡率(分離群: 7/34, 腸球菌非分離群: 4/166)を有意に上昇させている。2)
アメリカおよびカナダの医療センター22施設にて1990年から1993年にかけて行われたランダム化比較試験では、腹腔内感染症疑いの患者330人のうち、22%(71/330)で腸球菌が分離された。Robert Jらは、治療失敗の有意な独立予測因子として、APACHE II score(chi squared= 15.74、p <0.0001)および、腸球菌の存在(chi squared= 4.91、p <0.03)が有意であることを示した。さらに分離群ではAPACHE II score(12 with 腸球菌, 9 without腸球菌, p < 0.01)が有意に高かった。3)
一方、フランスの大学病院にて2006年から2010年に行われた前向き研究では、術後腹膜炎患者139人のうち、61人(43%)において腸球菌が腹水から分離された。そして腸球菌をカバーして抗菌薬治療を行った群、腸球菌をカバーしなかった群、そもそもカバー範囲が不適切な群において、観察期間内の死亡率に有意差は認められなかった。4)
腸球菌が分離された患者では、分離されなかった患者より予後が悪い可能性はあるものの、腸球菌を治療するか否かは予後に関与しないという可能性も示唆される。したがって、今回の考察では、腹腔内感染症患者において腸球菌の病原性がどの程度関与するのか、結論づけることは難しい。
【参考文献】
- 青木 眞.レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版
- Sitges-Serra A1, López MJ, Girvent M, Almirall S, Sancho JJ. Postoperative enterococcal infection after treatment of complicated intra-abdominal sepsis. Br J Surg. 2002;89:361-7
- Burnett RJ1, Haverstock DC, Dellinger EP, et al. Definition of the role of enterococcus in intraabdominal infection: analysis of a prospective randomized trial. Surgery. 1995 ;118:716-21.
- P. Seguin et al. Are enterococci playing a role in postoperative peritonitis in critically ill patients? Eur J Clin Microbiol Infect Dis (2012) 31: 1479-1485
寸評:これはまあ、月並みなあるあるのテーマなんですけど、検証は上手にできました。菌がいることと殺さねばならないことを区別しろってことですね。
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