注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科レポート〜膵液瘻に対するドレナージ適応は?〜
本テーマは膵臓切除術後における予防的ドレーン留置についてではなく、合併症として生じた膵液瘻に対して追加ドレナージ適応があるかどうかについて考察したものである。
膵液瘻は2016年にInternational study group of postoperative pancreatic fistula(ISGPF)によって「ドレーン排液量に関わらず血清アミラーゼ値の3倍以上の排液アミラーゼ値が術後3日以上持続する」と定義され、臨床症状によってBiochemical Leak(臨床症状なし),GradeB(臨床症状を持ち治療を必要とするもの),GradeC(腹腔内出血や敗血症を併発し外科的介入の必要なもの)の三つに分類されている。Biochemical Leakは2005年まではGradeAとして分類されていたが、更新されたことで厳密には膵液瘻ではないこととなった。
Biochemical Leakでは臨床症状はなく腹部CTでも液貯留を認めない。介入としては経口栄養のみでよく薬物治療、ドレナージも必要はない。GradeBでは腹痛、発熱、白血球上昇といった症状が見られる。経口栄養できないことが多く非経口栄養やドレナージ術、ソマトスタチンアナログや抗生物質を投与する。GradeCでは敗血症や臓器不全などの症状を引き起こすこともあり場合によっては再開腹を行う。よってドレナージ適応はISGPF分類によると全ての膵液瘻に対して適応がある1.2)
また別の分類として、UpToDateによるとドレナージ術の適応は症候性の患者、または術後6〜8週の後腹部検査で体液貯留が持続しているか拡大している場合である。Alexakisらによると膵液瘻に対してカテーテルドレナージ術を行ったところ生存率は85〜100%であったことがあげられる。3)
また、本旨とはずれるが2005年から2013年において膵臓切除術を受けた2196人においてオランダで後ろ向きコホート研究が行われた。2196人の中で膵液瘻を起こし、治療を行えなかった症例と膵液瘻以外の目的で再開腹を行った症例を除外した309人の患者を選別した。そのうち227人(73.5%)がカテーテルドレナージを行い、82例(26.5%)が再開腹を行った。その309人から性別、年齢、入院時ASAクラス、APACHEIIスコア、SIRS、臓器不全、治療歴によってそれぞれ64人を母体とし比較調査を行った。生存したのはカテーテルドレナージ術群55例(85.9%),再開腹術群41例(64.1%)であり、カテーテルドレナージ術群で有意に生存率が高かった。(p=0.007 RR=0.39 95%Cl=0.20-0.76)また、臓器不全や糖尿病発生率においても有意差が見られた。この研究から膵液瘻には再開腹術よりもカテーテルドレナージ術の方が予後良好であることがわかる。4)
今回膵十二指腸切除後の膵液瘻に対しては症候性のもの、または術後6〜8週に液体貯留が見られる場合全てにドレナージ適応があり、手術後生存率が高いことがわかった。しかしながらドレナージを行わなかった群の予後については言及された論文が見つからず、ドレナージ術の有効性についてそのものは考察できていない。
1) Bassi C, et al. Post- operative pancreatic fistula : An interna- tional study group(ISGPF)definition. Sur- gery 2005;138:8―13.
2) Claudio B,et al. The 2016 update of the International Study Group (ISGPS) definition and grading of postoperative pancreatic fistula: 11 Years After Surgery. 2017 Mar;161(3):584-591. doi: 10.1016/j.surg.2016.11.014. Epub 2016 Dec 28.
3) Alexakis N,et al. Surgical treatment of pancreatic fistula. Dig Surg 2004;21:262–274
4) Jasmijn Smits,et al. Management of Severe Pancreatic Fistula After Pancreatoduodenectomy JAMA Surg. 2017;152(6):540-548.
寸評:これは設問は良いけど難問で、けっこう堂々巡りになっちゃうんですよね。あと因果関係の逆転の話も絡みました。
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