注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)菌血症にリファンピシン(RFP)は有効か?
菌血症とは、本来無菌である血液に細菌が侵入した状態の事である。血管内カテーテル留置などによって生じる菌血症のうち黄色ブドウ球菌が占める割合は10%であり、そのうちMRSAが起因菌であるものがMRSA菌血症である。これに対する抗菌薬の第一選択はバンコマイシン(VCM)もしくはダプトマイシン(DAP)とされており、血液培養の陰性化から最低2週間の投与が必要である1)。しかし、VCM耐性を獲得したMRSA(VRSA)の米国での出現例2)があり日本でもVRSAが出現し増加した場合、治療が困難になると予想される。そこでMRSAに対して過去にRFP併用療法が有効であった症例報告3)もあり、MRSA菌血症に対してRFP併用療法がどの程度有効であるかを調べ、考察する事にした。なお、RFPは単剤投与では高頻度に耐性が発生するので、基本的には単剤使用を控えることになっている。
2012年12月10日から2016年10月25日にイギリスの29の病院で、RFP併用療法が治療失敗または再発を減らすという仮説が正しいかどうかを確かめるために多施設でのランダム化二重盲検プラセボ比較試験が行われた。発症後96時間以内に抗菌薬治療を受けた、黄色ブドウ球菌菌血症の18歳以上の患者758人に対し、標準的な抗菌薬治療とともに2週間、1日600~900mg(投与方法や体重に依存する)のRFPを投与される群とプラセボを投与される群にランダムで割り当て、その後12週間の治療失敗、再発、死亡率を評価した。また、この患者のうち47人はMRSA菌血症であった。結果として治療失敗、再発、もしくは死亡したのはプラセボ群の71人(18%)に対しRFP併用群は62人(17%)であった(p=0.81)。また、重大な有害事象(Grade3-4)の発生率はほとんど差が見られなかったが、抗菌薬による有害事象もしくは使用薬剤を変更した事による有害事象はRFP併用群の63人(17%)に対しプラセボ群は39人(10%)と有意差が生じた(p=0.004)。薬物相互作用は、併用群で24人(6%)、プラセボ群で6人(2%)と有意差が生じた(p=0.0005)4)。
また、MRSA菌血症による感染性心内膜炎(IE)の42人の患者に対して行われた症例対照研究では従来の治療法(VCM、DAPなど)にRFPを併用した群が通常治療群に比べて菌血症に罹患している時間が長く(5.2 vs 2.1 days、p<0.001)、生存率も低かった(79% vs 95%、p=0.048)。また併用群は52%の割合で薬物相互作用が起こり、肝酵素の上昇を認めた(21% vs 2%、p=0.014)5)。
また、米国でのMRSA感染症に対する治療のガイドラインでは、非複雑性の菌血症と自己弁のIEについてはRFPの併用を推奨していないが、人工弁のIEに関してはRFP併用を勧めている。さらに、同じくガイドラインに、まだ参考となる文献やデータに乏しいもののMRSAによる骨髄炎や髄膜炎や脳膿瘍にRFP併用を勧めている専門家がいるとの記載もある6)。
以上より、非複雑性のMRSA菌血症にはRFPを併用して抗菌薬治療しても予後は改善しないと考えられるが、複雑性の一部のMRSA菌血症に関してはデータが少ないもののRFPを併用して治療した方がよいとの記載もあり、RFPの最適な投与方法を定めるためには更なる研究データが求められる。
【参考文献】
1)MRSA感染症の治療ガイドライン MRSA感染症の治療ガイドライン作成委員会 2013;p24~27
2)Pavlina Jelinkova et al. Novel vancomycin-peptide conjugate as potent antibacterial agent against vancomycin-resistant Staphylococcus aureus. Infection and drug resistance. 2018;11;1807-1817. Doi:10.2147/IDR.S160975.
3)Hideharu Hagiya et al. Successful Treatment of Persistent MRSA Bacteremia using High-dose Daptomycin Combined with Rifampicin. InternMed53:2159-2163,2014. Doi:10.2169/internalmedicine.53.2711.
4)Guy E Thwaites et al. Adjunctive rifampicin for Staphylococcus aureus bacteraemia(ARREST): a multicenter,randomised,double-blind,placebo-controlled trial. Lancet.2018Feb17;391(10121):668-678.Doi:10.1016/S0140-6736(17)32456-X.
5)Riedel DJ et al. Addition of rifampin to standard therapy for treatment of native valve infective endocarditis caused by Staphylococcus aureus. Antimicrob Agents Chemother 2008;52:2463-7. Doi:10.1128/AAC.00300-08.
6)Catherine Liu et al. Clinical Practice Guidelines by the Infectious Diseases Society of America for the Treatment of Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus Infections in Adults and Children. Clinical Infectious Diseases,Volume52,Issue3,1. February2011,Pages e18-e55. Doi:org/10.1093/cid/ciq146.
寸評:良いレポートです。後ろ向き研究では因果がひっくり返ってる可能性も高いことを学びましたね。
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