注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染性心内膜炎の患者で、リードを温存して治療することをどの程度許容できるか
ペースメーカーや植え込み型除細動器(ICD)などの心血管用植え込み型デバイス(CIEDs)による感染において、リードを含むCIEDsの完全除去が標準的な治療である。今回、感染性心内膜炎の患者でペースメーカーのリードを温存して治療することをどの程度許容できるかについて調べた。
CIEDsが感染源ではない感染性心内膜炎では、リードを温存してよいとされる1)が、CIEDsをつけた患者で左心系に疣贅を認めた場合にデバイスを温存するかどうかについて論じた論文をみつけられなかった。デバイスを温存した患者が、適切な抗菌薬治療の後に感染を再発してしまう場合はCIEDs感染している可能性が高く、デバイスを除去したほうが良いとされる。2)
重大なリスク(例えば、長期のデバイス使用暦があり継続的なペースメーカー使用を必要とする、重度の合併症がある高齢者など)を抱えたCIEDsが感染源である感染性心内膜炎の患者(CDIE)は、CIEDsの除去ができない場合がある。この場合、長期的に抗菌薬による抑制を行うが、CDIE患者はその後の再発および死亡率が増加する。3)2005年-2015年の間で、CIEDs感染と診断された660人の患者のうち48症例に対して診断後4週間の抗菌薬を静注後8週間以上の抗菌薬によるサプレッション治療を行った。48人の年齢の中央値は78歳で、症例の48%(23/48)がペースメーカー、38%(18/48)がICDを有し、14%(7/48)が心臓再同期療法(CRT)を有した。患者は平均8つの合併疾患があり、平均Charlison合併症指数(CCI)は4であった。頻度の多い合併疾患は、不整脈(92%、44/48)、虚血性心疾患(75%、36/48)、弁膜症(54%、26/48)、高血圧(52%、25/48)だった。デバイス除去をしなかった理由は、83%(40/48)の患者に合併症または手術リスクが高かったからで、10%(5/48)は外科的に除去することを拒否した。残りの6%(3/48)には除去しない明確な理由はなかった。結果は1年以内に再発した割合は18%で、全生存期間中央値は1.43年(95%CI 0.27-2.14)だった。4) デバイスの除去の対象とした群が重大な合併症やリスクのある高齢者なので、そもそも死亡率が高いと考えられた。
一方で、CIEDs感染の患者でデバイスを完全に除去できた場合、高い治療効果がみこめる。1991年-2003年の間でCIEDs感染した189の症例のうち、ほとんど(98%)が完全なデバイス除去を行い、そのうちの96%は再発なく治癒した。5)
以上のことから、その後の再発率を考慮すると、感染源がCIEDsと判明した場合、CIEDsを除去できる患者は除去したほうが良い。しかし、感染源がCIEDsではない場合や、除去するにはリスクが高い場合、平均余命が短いと考えられる場合では、CIEDsを温存して治療を行うことを許容される。
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- Sohail MR, et al. Management and outcome of permanent and implantable cardioverter-defibrillator infections. J Am Coll Cardiol. 2007;49:1851-1859
寸評:これはテーマもよくて、とくに患者に寄り添っていたのが素晴らしかったです。惜しかったですね。たった5人の患者でも教えてくれることは多いのです。そう、手術を拒否した患者の予後が、ここでは一番大事なのでしたー。
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