注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
単一のAIDS指標疾患はHIV治療失敗の可能性を上げるか
【背景】
抗HIV療法の効果判定はウイルス学的指標(血中HIV RNA量)と免疫学的指標(CD4陽性Tリンパ球数)に基づいて判断するが、その効果不十分(治療失敗)の原因としては薬剤耐性HIV、ART(antiretroviral therapy)服薬遵守率、血中薬物動態といった因子が知られている1)。今回私はこれら以外の因子として、AIDS指標疾患病原体への感染自体が治療失敗のリスクとなるかについて調べた。
【結果と考察】
治療失敗と単一の日和見感染症との相関関係を検討した論文は少なかったが、結核、(非AIDS指標疾患ではあるが)ウイルス性肝炎については治療失敗との関係が示唆されている。例えば、Allam RRらがAndhra Pradesh(インド)でART療法患者を対象に行ったコホート研究2) (対象患者数:1431人、フォローアップ期間:2年間、平均年齢:34(IQR 29-40)、平均体重47kg(IQR 41-55)、平均CD4陽性細胞数:136 cells/mm3(IQR 76-203))によれば、肺結核を発症した患者群においてART療法が免疫学的失敗となった割合が有意に大きかった。その理由として、結核そのものがHIV感染とは独立してCD4減少を引き起こすことが考えられている2)。Hailay AGらが行ったコホート研究3)においても同様の傾向がみられた。また、HBV、HCV、HIVを同時感染した患者ではHIV単独感染の患者に比べ、ART療法における免疫学的およびウイルス学的な治療失敗の可能性が高いという報告がなされている3)。
AIDSにおいては複数の日和見感染症を併発し、また感染症に対する治療期間、投与薬剤、副作用なども症例ごとに異なるため、治療失敗の原因を単一の病原体そのものに帰することは困難だと考えられる。例えば、結核治療では抗結核薬との相互作用の影響からART療法で使用できる薬剤が制限されることが治療失敗に寄与すると考えることもできる。そのため、非HIV感染患者において感染微生物ごとのCD4やCD8への影響を検討することで、その免疫学的影響をHIV患者へ応用することを検討したがそのような研究を見つけることはできなかった。
今回の疑問への直接的なエビデンスを得るには至らなかったが、以上の結果は、肺結核や肝炎ウイルス感染を合併するHIV症例では治療反応性の推移に注意を要する一助になると考える。
1)抗HIV治療ガイドライン2018年3月
2) Allam RR et al. Trans R Soc Trop Med Hyg 2015; 109: 325–333
3)Gesesew HA et al BMJOpen2018;8:e017413.
4)Laura Milazzo et al. Lancet Infect Dis. 2014 Nov;14(11):1025-1027.
寸評:この因果を巡る問題はなかなかに難しい。OIが問題なのか、OI治療が問題なのか、はたまた、、、といろいろ交絡因子が入るからですね。
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