注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科レポート
『感染性心内膜炎の患者に点状出血が見られた場合、脳梗塞の発症率はあがるのか?』
点状出血をもたらす微小血管の塞栓の機序と脳塞栓症を起こす機序に共通するものがあれば、点状出血が見られた場合、点状出血が見られない患者に比べて、脳塞栓症を起こす可能性が高いと考え、両方の機序について調べた。
感染性心内膜炎の患者の心臓では、フィブリンの凝結物もしくはフィブリンの副産物が、障害された心内膜に付着して疣贅を形成する。疣贅が一度できてしまうと、フィブリンの塊が弁から離れて、血液循環にそって運ばれ、血管に詰まり、塞栓を形成する(1) 。疣贅の大きさと性状を心エコーで観察し、その後、塞栓症が起きるかどうかを記録した実験によると、塞栓症は疣贅の大きさが10mmを超えていた場合と疣贅に動きが見られた場合、起こる確率が上がる(2) 。疣贅のサイズが大きい場合や、可動性が大きい場合、疣贅からの破片がはがれる可能性は高いと考えられるため、感染性心内膜炎で生じる脳塞栓症は心内膜に形成された疣贅の破片が血液を循環する際に脳血管を塞栓することによって発症すると考えられた。
点状出血やJaneway発疹などは微小動脈への塞栓が原因となって起こると言われている(3) 。しかし、微小血管への塞栓が疣贅の破片が血管に詰まることによってのみ引き起こされるのかどうかは不明であり、脳塞栓症を起こす機序と共通する機序があるかは不明であった。
しかし、感染性心内膜炎の患者の皮膚兆候(オスラー結節、Janeway発疹、紫斑、網膜出血)に着目し、その後脳塞栓症を起こすかどうかが記録された実験では、皮膚症状が見られた患者で脳塞栓症の起こる確率は、皮膚症状のみられない患者に対して確率が高いという結果が得られており(4) 、点状出血を起こす微小血管の塞栓形成の機序は明確ではないが、感染性心内膜炎と同じようなメカニズムがあることを示唆している。点状出血などの皮膚所見のある感染性心内膜炎では脳梗塞の頻度はあがると言える。
参考文献
(1)Silverman ME ,et al. Extracardiac Manifestations of Infective Endocarditis and Their Historical Descriptions.Am J Cardiol .2007, Pages 1802-1807
(2)Thuny F, et al. Risk of embolism and death in infective endocarditis: prognostic value of echocardiography: a prospective multicenter study. Circulation. 2005 Jul 5;112(1):69-75
(3)感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン 2017改訂版
(4)Amandine Servy,Laurence Valeyrie-Allanore,MD, et al. Prognostic value of skin manifestations of infective endocarditis.JAMA Dermal.150(5):494-500.
寸評:このレポートはタイトルの段階でぼくから何度かダメ出しだされて、最後に半ば「お情け」でオーケーしたものでした。が、レポートのできは非常に良かったです。正直、このような理路は僕自身思いついていませんでした。学生、侮りがたし。
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