注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
MRSAによる慢性骨髄炎の患者に対してST合剤を投与するのは適切か
私はMRSA感染症の治療において第一選択はVCMであると思っていたがVCMからST合剤へ治療が変更されていたのを見てこのような疑問を持った.MRSA感染の骨髄炎の抗菌薬治療において投与方法は非経口療法,経口療法,初期非経口療法後の経口療法がある.非経口投与の抗菌薬には,Vancomycin(VCM)(B-II)及びDaptomycin(B-II)がありVCMは現時点で第一選択である.非経口および経口投与治療の抗菌薬には, ST合剤(B-II),Clindamycin,Linezolid(B-III)がある.上記の抗菌薬にRifampinを足すこともある.最適治療期間は不明だが,最低8週間のコースを推奨している(A-II).ST合剤,Doxycyclin/Minocyclin,Clindamycin,又はFluoroquinoloneを用いた経口Rifampinベースの併用療法を1-3ヶ月追加することが提案されている(C-III).現在の治療は,非比較症例報告,および動物実験に大きく基づいていて最適な投与方法は確立されていない.治療決定は各経路の長所と短所を考えた後にそれぞれの患者の状況に基づいて行われるべきである.ただ,経口療法と比較して経費の増加,患者の不便さ,感染症などの合併症の可能性はあるものの,非経口療法はより良い治療反応性がある. [1]
ここでST合剤とVCMのMRSAの治療についての比較試験を参照する.
Michal PaulとJihad Bisharaらは,イスラエルの4つの病院でMRSA重症感染症の成人に対するST合剤とVCMの治療効果のランダム化比較試験を行った.ST 合剤320mg / 1600mgを1日1回ずつ計2回,VCM1gを1日2回投与し,治療効果は7日目の生存,血行動態,発熱の有無,SOFAスコアの安定性,および菌血症の有無と30日目の生存率で判断した.非劣性は,治療失敗の絶対差が15%未満であると定義された.治験には252人の患者が含まれ,91人(36%)は菌血症だった.治療失敗の症例はST合剤(51/135,38%)対VMC(32/117,27%) (リスク比1.38,CI 0.96〜1.99)で,有意差は認められなかった.ST合剤とVMCの治療失敗の絶対差10.4%(CI-1.2%〜21.5%)で,ST合剤はVCMに劣っていなかった.しかし,菌血症の患者では,(リスク比1.40,0.91〜2.16)で絶対差は16%とST合剤はVCMより劣性であった. 30日間の死亡率はST合剤(19/135,14%)対VMC(13/117,11%)であり(リスク比1.27, 0.65~2.45)で,両群間に有意差はなかった.しかし菌血症患者で比較するとST合剤群では14/41(34%),VCMでは9/50(18%)が死亡し(リスク比1.90,0.92〜3.93),ここでは絶対差16%とVCMに比べてST合剤が劣性だった.また,年齢,Charlson スコア,寝たきり有無,COPD有無,手術歴,人工呼吸器装着,SOFAスコア,菌血症の有無を加えた多変量ロジスティック回帰分析では,ST合剤は治療失敗と有意に関連していた(オッズ比2.00,1.09〜3.65).[2]
MRSA感染の治療としては,菌血症でない場合はVCMとST合剤の効果は変わらないが,菌血症の患者ではST合剤よりVCMの方が効果はある.また菌血症を変量に含む多変量解析をしてもVCMの方が優れていた.MRSA感染症はまずVCM投与で治療を始めることが第一選択であるが,菌血症でない場合はST合剤も使えるのではないかと思う.
参考[1] Liu C et.al, Infectious Diseases Society of America .Clinical practice guidelines by the infectious diseases society of america for the treatment of methicillin-resistant Staphylococcus aureus infections in adults and children.Clin Infect Dis. 2011;52(3):e21.
[2] Paul M et.al,Trimethoprim-sulfamethoxazole versus vancomycin for severe infections caused by meticillin resistant Staphylococcus aureus: randomised controlled trial.BMJ. 2015 May 14;350:h2219
寸評:「エビデンスない」だから何も言えない、、なんてことはない、、、ということをよく学びましたね。より大きな世界から世界を見るのが大事ですが、学生さんには難しいですよね。
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