注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSLレポート「肺膿瘍と肺クリプトコッカス症のCTでの相違」
肺膿瘍と同様に肺に空洞性病変を作るものとして、クリプトコッカスや結核などによる感染症の他に、腫瘍やサルコイドーシスなどの非感染性疾患がある。この中でも、クリプトコッカス感染症と肺膿瘍は共にステロイド患者などリンパ球の低い患者に起こりやすく鑑別を要し、比較的低侵襲に評価可能なCTが鑑別に有用である。これらのCT上の所見の違いを病変の大きさ、表面の性状、発生場所で比較して調べた。
肺クリプトコッカス症についてXieらの研究(n=72)1)によると、結節病変の大きさは30mm以下(42例)、30mm以上(5例)と多くが30㎜以下であり、表面の性状はほとんどが滑で、下葉に多かった(上葉14(19.4%),下葉34(47.2%))。これに対して肺膿瘍について、宇留賀らの研究(n=44) 2)によると一次性肺膿瘍の病変の大きさは平均して64.5mm(15-163mm)で、上葉に多かった(68.2%)。また、Starkらの研究(n=12)3)によるとその多くは表面不整(83.3%)であった。まず病変の好発部位について、これは両疾患を起こす原因の違いに起因すると考えた。すなわち、クリプトコッカスは経気道感染し、重力に従って移動するため肺の下部に多く、肺膿瘍は誤嚥によって起こることが多い4)ため、臥位時にした側になる上葉の背側や下葉でも上部に病変を作りやすい。また、クリプトコッカスは宿主の環境に適応する性質があり5) 緩徐に病変を作るため、表面が滑で小さい病変を作るのに対し、肺膿瘍は病変部位の炎症による壊死によって短期間でできるため、表面が不整で大きい病変となると考えた。
以上の所見の違いからある程度どちららしいかの予測をする。しかし、この予測にはいくつかの欠点がある。すなわち、両疾患を直接比較したものではないこと、患者背景が均一でないこと、そもそもn数がかなり小さいことである。この欠点を念頭に置いたうえで、確定診断への一助とすれば良いと考える。
参考文献
1) L.Xie et.al. Pulmonary cryptoccosis: comparison of CT findings in immune-competent and immunocompromised patients. Acta Radiologica 2015:56(4);447-453
2) 宇留賀公紀ほか 肺膿瘍44例の臨床的検討 日呼吸誌 2012:1(3);171-174
3) D.D.Stark et.al. Differentiating Lung Abscess and Empyema: Radiography and Computed Tomography. AJR 1983 July 141:163-167
4) Jameson et.al. HARRISON’S PRINCIPLES OF INTERNAL MEDICINE 20th Edition
5) J.A Alsphaugh Virulence Mechanisms and Cryptococcus neoformans patho-genesis Fungal Genet Biol. 2015 May 78:55-8.
寸評:これはいわゆる記述研究を並べています。記述研究、役に立ちますね。臨床家にとっては、IF高くなくても、セクシーなスタディーデザインや数学入ってなくても、役に立つ研究は多い。それが大事なのです。
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