注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「起炎菌不明の感染性心内膜炎に対してどの抗菌薬をどのくらいの用量と期間投与すべきか」
感染性心内膜炎(IE)の抗菌薬を選択する際、一般的には血液培養により起炎菌の同定が行われるが、血液培養採取前に抗菌薬を投与した場合や起炎菌が培養困難である場合などでは、血液培養が陰性となる場合がある。今回自分の担当したIEの患者さんはオーグメンチン内服下での血液培養にてMRSEのみが同定された方で、真の起炎菌が不明であった。この患者さんは血液培養は陽性であったが、今回は血液培養陰性による起炎菌不明のIEに対して、どのような抗菌薬治療が推奨されるかについて調べた。
一般のIEの起炎菌の頻度は、黄色ブドウ球菌32%、緑色連鎖球菌18%、腸球菌11%であるが⑴、その発症形態(急性か亜急性か)や人工弁の有無、その他患者背景(年齢、居住地、最近の観血的手技、透析、先天性心疾患、薬物使用、血管カテーテルの使用など)などの条件により、その頻度は異なる⑵。
血液培養陰性となる起炎菌としては、Brucella spp.、Coxiella burnetii、Bartonella spp.、Tropheryma whipplei、Mycoplasma spp.、Legionella spp.、真菌などが挙げられるが⑶、前述のように血液培養採取前の抗菌薬投与により、通常ならば陽性となる菌が陰性となることもある。
以上より、血液培養陰性IE(BCNIE)に対して選択されるべき抗菌薬は、元来血液培養陰性となる菌や真菌に対する抗菌薬(DOXY、RFP、LVFX、CAMなど)や抗真菌薬(AMPH-Bなど)と、一般的に頻度の高い起炎菌に対する抗菌薬(AMPC、GM、CTRX、CLDM、DAPなど)である⑶。
2002年から2014年にBCNIEに分類された患者177人に対して抗生剤治療を行ったフランスのMenuらの報告では、ヨーロッパのガイドラインに則り、177人のうち、院外感染の患者124人にAMPC6週間(12g/day)、GM3週間(3mg/kg/day)の投与、院内感染の患者53人にVCM6週間(30mg/kg/day)、GM3週間(3mg/kg/day)の投与、2004年以降は院内感染の患者には前述の抗菌薬を投与後、熱が48時間以上持続する患者には、前述の抗菌薬の投与に加えてAMPH-Bを投与した結果、1年後の死亡者数は院外感染患者9人(5.6%)、院内感染患者2人(3.8%)で合計11人(5.1%)であり、BCNIE患者に対する抗生剤治療に関するそれまでの他の報告と比べ、治療開始から1年後の患者の死亡者数は最も少ない結果となった⑷。
しかし、この論文では、抗真菌薬は処方されているものの、元来血液培養陰性となる細菌群に対する抗菌薬は処方されておらず、BCNIEに対する最適な治療とは言い難い。他の論文からもこのテーマの答えを導くことはできなかった。
- 2005;293(24):3061-3062
- 日本循環器学会「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン」
- http://cardioaragon.com/web/pdf/GUIDELINES.ESC.2015.Infective%20Endocarditis.EurHeartJ.2015.pdf
- J Antimicrob Chemother 2017;72:290-298
寸評;面白いテーマだと思いますし、しっかり考察していると思います。正直、循環器学会のガイドラインはIEのエンピリカルな治療についてかなり雑な考察をしていますし、間違ってもいます。あなたのレポートのほうがずっとましですよ。
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