注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「感染性心内膜炎の合併症は起因菌によって頻度が異なるか」
感染性心内膜炎(IE)の合併症として心筋、神経系、腎臓、筋骨格系、肺合併症ならびに全身感染(塞栓形成、転移性感染症、および真菌性動脈瘤を含む)が挙げられる1)。今回はIEと骨関節感染(OAIs)の関係、IEと塞栓事象(EE)の関係に着目することで起因菌について考察した。
最初にIEとOAIsの検討では、IEに菌血症性OAIを合併した患者(n=70)とOAIを合併していないIEの患者(n=537)の起因菌を比較するMurilloらの後ろ向き研究を参考にした。IEとOAIを合併した患者の起因菌の割合は、S.aureus:27(39%), Coagulase-negative staphylococci:6(9%), S.viridans:16(23%), S.bovis:6(9%), Enterococci:10(14%)であった。OAIを合併しないIEの患者の起因菌の割合はS.aureus:96(18%), Coagulase-negative staphylococci:90(17%), S.viridans:165(31%), S.bovis:58(11%), Enterococci:84(16%)であった。S.aureusが起因菌のIEでは他の起因菌によるIEよりも優位にOAIを発症しやすいという結果であった 2)。
次にIEとEEの検討では、IEとEEを起こした患者(n=131)とEEを起こさなかったIEの患者(n=253)の起因菌を比較する2005年に発表されたFrankらの前向き研究を参考にした。EEのあったIE患者の起因菌の割合は、S.bovis:32(24%), Enterococci:14(11%), Oral streptococci:24(18%), S.aureus:37(28%), Coagulase-negative staphylococci:4(3%) であった。EEのなかったIE患者の起因菌の割合は、S.bovis:31(12%), Enterococci:14(5%), Oral streptococci:71(28%), S.aureus:45(18%), Coagulase-negative staphylococci:13(5%) であった。S.bovisが起因菌のIEでは他の起因菌よりもEEを発症しやすいという結果であった3)。
しかし、2018年にYangらによって発表されたIEとEEの関係についてのメタ解析の結果はStaphylococcus spp.が起炎菌であることがEEのリスクを増大させ、Streptococcus spp.が起炎菌であることがリスクを低下させるというものであった4)。
二種類の合併症であり限られた検討であるが、IEの起因菌によって起こり得る合併症の頻度が異なる可能性を示唆する研究結果がいくつかあり、特にIE患者におけるEE発生の予測についてHubertらがおこなった研究5)では、S.aureusによるIEは1.78倍EEのリスクが上昇するという結果であった。
IEの合併症としてOAIとEEの2種のみであり、IEとEEとの検討でリスクを上昇させる起因菌の種類が論文によって異なってはいるが、今回の検討から、IEの起因菌がS.aureusの場合、OAIとEEを発症しやすくなること、また反証するデータがあるものの、S.bovisが起因菌の場合、EEを発症しやすくなる可能性があることがわかった。
1)Fowler VG Jr:Staphylococcus aureus endocarditis: a consequence of medical progress. In:UpToDate, Post TW(Ed),UpToDate,Waltham,MA.(Accessed on October 16,2018)
2)Murillo O1, Grau I2, Gomez-Junyent J2:Endocarditis associated with vertebral osteomyelitis and septic arthritis of the axial skeleton. JAMA. 2005 Aug 24;294(8):900.
3)Thuny F1, Di Salvo G, Belliard O, Avierinos JF, Pergola V:Risk of embolism and death in infective endocarditis: prognostic value of echocardiography: a prospective multicenter study. Circulation. 2005 Jul 5;112(1):69-75. Epub 2005 Jun 27.
4)Yang A1, Tan C2, Daneman N3:Clinical and echocardiographic predictors of embolism in infective endocarditis: systematic review and meta-analysis. Clin Microbiol Infect. 2018 Aug 24. pii: S1198-743X(18)30584-6. doi: 10.1016/j.cmi.2018.08.010.
5)Hubert S, Thuny F, Resseguier N:Prediction of Symptomatic Embolism in Infective Endocarditis: Construction and Validation of a Risk Calculator in a Multicenter Cohort. J Am Coll Cardiol. 2013 Oct 8;62(15):1384-92. doi: 10.1016/j.jacc.2013.07.029. Epub 2013 Aug 7.
寸評:黄色ブドウ球菌、いやですね、ネッチリですね、しつこいですね。まるでぼくのよう、、、
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