注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
腎臓周囲の脂肪織濃度上昇は、腎盂腎炎の診断に有用な所見か?
腎盂腎炎の CT 画像にて、腎周囲の脂肪織に濃度上昇が見られることは知られていることである。しかし、その所見が実際の診断にどれほど有用であるのか、疑問に思い考察してみることにした。
2017 年の Fukami らの報告に、単純 CT における腎周囲組織の毛羽立ち様の濃度上昇(PFS)について、年齢・性別・腎機能別にグループ化して比較したものがある(1)。この研究は、腎盂腎炎群が 89 人(74±15 歳)、対照群が 319 人(63±16 歳)で行われた後ろ向き症例対照研究であった。また、腎盂腎炎群の 25 人(28%)が男性であり、対照群では195 人(61%)が男性であった。結果は、PFS が見られたのは腎盂腎炎群では 72%(64/89)、対照群では 29%(93/319)、と頻度が有意に高かった。この値から計算すると、腎盂腎炎の診断における PFS の感度は 72%、特異度は 71%、陽性尤度比は 2.5 となり、ある程度有用な検査であると思われる。
しかしこの研究での腎盂腎炎群は、対照群よりも有意に高齢であることも考えなければならない。また、対照群内のみの比較でも、1)70 歳以上であること、2)男性であること、3)腎機能が悪いこと(eGFR<35)の 3 つの因子は、PFS が見られる頻度を有意に高くしていることがわかった。さらに、年齢・性別・腎機能が、腎盂腎炎群と同等になるように対照群から症例を抽出して比較したところ、腎盂腎炎の診断における PFS の感度は 72%、特異度は 58%、陽性尤度比は 1.7 となり、診断における意義はかなり小さい、とこの論文からは結論づけることができる。
今回、レポート作成にあたって、論文を 1 件のみしか引用していない。腎盂腎炎患者における所見の内で、PFS が見られる頻度に言及している論文などは存在したが対照群がなく、このテーマに沿った十分な考察ができると思われる論文をこの 1 件しかみつけることができなかった。 また、この論文にも欠点はあり、一つは、対照群の中に、腎盂腎炎の既往があるかどうかが考慮されていないということである。また、PFS という所見の定義が曖昧であるということも問題であろう。これらの問題については、この 2 点も考慮に入れたさらなる研究が行われることに期待する。
参考文献
(1)Hirotaka Fukami, Yoichi Takeuchi, Saeko Kagaya, Yoshie Ojima, Ayako Saito,
Hiroyuki Sato, Ken Matsuda, and Tasuku Nagasawa
Perirenal fat stranding is not a powerful diagnostic tool for acute pyelonephritis
Int J Gen Med. 2017; 10: 137–144. Published online 2017 May 8
寸評;これはよくある話だけど、ちゃんと疑問にしたのが偉い。学生教育でも「治療はこうなってます」「検査所見はこうです」と言い切るのではなく、その検査所見の感度特異度は?その治療どこまで聞くの?と突っ込んでほしい。
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