注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「手術部位感染の予防として創部の陰圧創傷閉鎖法は効果があるのか」
術部位感染(SSI)は、医療の進歩とともに減少してきたにもかかわらず、依然として医療関連感染多くを占めており、術後の予後の悪化を招くだけでなく、入院期間の延長や医療費の増加の原因となっている。SSIの予防策としては、陰圧創傷閉鎖法(NPWT)という、創傷の表面に大気圧未満の圧力を連続的または断続的に加える創傷の被覆方法は一般的ではないが、創傷の治癒を促進するこの療法に興味を持ち、SSIの予防に対しても効果的かどうかについて考察した。
De Vries F.E.らによるSSIのリスクを陰圧創傷閉鎖法(NPWT)と従来の創傷被覆法とで比較することを目的としたシステマティックレビュー1)によると、6件のランダム化比較試験(RCT)ではSSIのリスク軽減に関して、NPWTは従来の創傷被覆材に対して有意な差を示した(オッズ比[OR]:0.56、95%信頼区間[CI]:0.32-0.96、P = 0.04、I2:0% )。同様に15件の観察研究についても有意差が見られた(OR: 0.30、95%CI: 0.22-0.42、I2:18%)。
また、それらを手術の種類ごとに分析すると、整形外科/外傷手術における4件のRCTと2件の観察研究のメタアナリシスでは、ともにSSIのリスクを低減することに関して有意な差は見られなかった(OR:0.58、95%CI:0.32-1.07およびOR:0.42、95%CI:0.13-1.40)。血管手術についてはRCTでは有意差を認めず(OR:0.47、95%CI:0.10-2.11)、観察研究では有意差を認めた(OR:0.14、95%CI:0.04-0.51)。腹部ヘルニア修復術では有意な差を示し(OR:0.31、95%CI:0.19-0.49)、2件の心臓手術についての観察研究(OR:0.29、95%C:0.12-0.69)と乳房手術についての観察研究(OR:0.15、95%CI:0.03-0.81)でも同様に有意差が見られた。
GRADE(Grades of Recommendation Assessment Development and Evaluation)2)の評価においては、RCTのほとんどの研究でアウトカムの評価者の盲検化がなされていないことと、標本サイズが小さいことにより(最適情報量を満たさなかった)、エビデンスレベルが低下していると判断した(GRADE C)。
以上よりエビデンスレベルが低く、今後の研究結果に左右される可能性はあるが、NPWTを行った患者では、従来の創傷被覆材よりもSSIのリスクが低減されることを示唆している。また、手術の種類ごとの分析結果は、適応する手術によってリスクの低減に差があり、当然かもしれないが予防的NPWTの効果をすべての手術に当てはめてはならないことを暗示している。今後同じ目的のシステマティックレビューが、よりエビデンスレベルの高いものとなるためには、NPWTの実施者とアウトカムの評価者を別にした研究を分析に使用する必要があり、そのためにはNPWTの装置が外された状態で、治療者とは別の者が評価者となるというような複雑なRCTが数多く実施されなければならない。このような研究は現在のところあまり行われておらず、行われていたとしても含まれる患者数が少ないという問題もある。この点が現時点でのSSIの予防としてのNPWTの効果についての研究の限界であると考えられるが、今後このテーマの研究が多く行われることによってこの問題が解決できるかもしれない。加えて、どの種類の手術で効果が高いかということも十分な量の研究がなされれば議論ができるようになると考える。
1) De Vries FE et al, 2016, A systematic review and meta-analysis including GRADE qualification of the risk of surgical site infections after prophylactic negative pressure wound therapy compared with conventional dressings in clean and contaminated surgery, Medicine (Baltimore) ;95(36), e4673
2) Handbook for grading the quality of evidence and the strength of recommendations using the GRADE approach. Updated October 2013.
寸評;なによりよかったのは「複雑なRCT」の必要性を予見したことですね。
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