注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
壊死性筋膜炎と重症蜂窩織炎の鑑別でアテになる方法はあるのか?
<LRINEC scoreによる評価>
CRP、WBC、Hb、Na、Cr、Gluを点数化し、NSTI(壊死性皮膚軟部組織感染症)の診断に用いるツールで、13点中6点以上であれば、壊死性筋膜炎の陽性的中率92%、陰性的中率96%でNSTIの予測が可能としているが[1]、病初期では採血結果に変化が出ないことも多く、早期のNSTIの診断や除外には限界がある。実際LRINEC scoreが0であった壊死性筋膜炎の報告もある。[2]
<CT、MRIなどの画像所見>
液体貯留や筋膜肥厚などの所見が診断に有用な場合があるが、壊死性筋膜炎においてそれらの所見の感度は高いが、特異度は低い。組織のガスの存在は、主に複数菌感染やクロストリジウム属のガス壊疽で認められ、あれば診断に有用な情報だが、その感度は低いため、ガスがなくてもNSTIは否定できない。[3]
<臨床所見>
壊死性筋膜炎の診断基準:次の①~⑥を全て満たすもの(①広範な浅筋膜と周囲組織の壊死 ②精神症状を伴う中等度/高度の全身性中毒反応 ③筋層は侵されない ④創および血液中にクロストリジウム属が検出されない ⑤大血管の閉塞がない ⑥病理組織学的に高度の白血球浸潤、筋膜と周囲組織の壊死、微小血管の血栓を認める)
初期の壊死性筋膜炎は、見かけは蜂窩織炎に類似しており、初診時に35~85%が蜂窩織炎や膿瘍と診断されている。この基準に基づいて迅速に診断することは難しく、緊急度の高い壊死性筋膜炎を見逃すリスクが大きい。[4]
<局所所見>
壊死性筋膜炎の特徴として、病変の境界が不明瞭、水疱形成、圧痛が周囲の正常組織にまで及ぶこと、見た目以上に疼痛が非常に強いこと、皮膚壊死などがあるが、下線部は蜂窩織炎との鑑別の要素にはなり得る。だた、臨床現場でこれらを正確に見極めることは容易ではない。[5]
<病理組織学的所見>
壊死性筋膜炎を発症早期に迅速診断する方法の一つで、検体は少なくとも10×7mmで皮膚から筋肉を一部含めた軟部組織全層を採取する。肉眼的に壊死の所見が認められない場合には有用。[6]
<皮膚切開>
診断の決め手となるのは、皮下組織の術中所見であり、疑わしい部位に皮膚切開をし、皮下組織を確認することは非常に有用である。また、蜂窩織炎で見られた水疱形成部に皮膚切開をし、壊死性筋膜炎を否定できた症例もあり鑑別に有用。[7]
「壊死性筋膜炎を少しでも疑えば、早急にデブリドマン!!」
NSTIの中でも、壊死性筋膜炎とガス壊疽は絶対に見逃してはいけない。壊死性筋膜炎は急速に進行するため、敗血症のサインや少しでも疑うような所見があれば、早急に診断することが重要。そのためには、上記に記した所見から得た情報を総合的に判断し、少しでも疑うような所見があれば、見逃す前に、早急に皮膚切開を行うことが最もアテになる鑑別方法である。皮膚切開以外のスコア、診断基準、所見では完全に鑑別することは困難であると考えられる。
Take home message:壊死性筋膜炎の見逃しは怖い!
壊死性筋膜炎は、早期診断、早期治療が必要であり、蜂窩織炎との鑑別が難しい場合は、躊躇せずに皮膚切開を行うことが肝要である。<参考文献>[1]: Wong CH, Khin LW, Heng KS, et al ;The LRINEC(Laboratory Risk Indicator for Necrotizing Fasciitis) score; a tool for distinguishing necrotizing fasciitis from other soft tissue infections. Crit Care Med ,2004; 32; 1535-41. [2]: Wilson MP, Schneir AB: A Case of Necrotizing Fasciitis with a LRINEC Score of Zero: Clinical Suspicion Should Trump Scoring System. J Emerg Med, 2013; 44: 928-31. [3]: Up to date Necrotizing soft tissue infectons. Mandell et al:Principles and practice of infectious diseases:8thedition.Necrotizing Fasciitis. DennisL.Stevens et al. Practice Guidelines for the Diagnosis and Management of SSTI: IDSA 2014 [4]: Wong CH,Chang HC,Pasupathy S,et al: Necrotizing fasciitis:clinical presentation,microbiology, and determinants of mortality.J Bone Joint Surg Am, 2003;85-A:1454-1460. [5]: Wang YS,Wong CH,Tay YK:Staging of necrotizing fasciitis based on the evolving cutaneous features.Int J Dermatol,2007;46:1036-1041. [6]: Stamenkovic I,Lew PD:Early recognition of potentially fatal necrotizing fasciitis.The use of frozen-section biopsy.N Engl J Med,1984;310: 1689-1693. [7]: Stevens DL,Bisno AL,Chambers HF,et al: Practice guidelines for the diagnosis and management of skin and soft-tissue infections.Clin Infect Dis, 2005;41:1373-1406.
寸評:テーマは面白いですが、少し議論がとっちらかりました。いずれにしても診断スタディーのバリデーションは大切ですね。
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