注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
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腎移植患者にCMV感染症に対する予防的抗ウイルス薬投与は必要か
サイトメガロウイルスは一般人口の多くが不顕性感染をもっており、臓器移植後の免疫抑制剤の投与、悪性腫瘍治療中の免疫抑制、AIDSなどの免疫不全状態で発症する。固形臓器移植においては、CMV抗体レシピエント陽性の場合に免疫抑制剤投与による免疫不全からCMVの再活性化がおこりCMV感染症を発症することに加えて、CMV抗体ドナー陽性レシピエント陰性の場合は初感染のハイリスクとなる。そのためCMV感染症発症リスクのある臓器移植患者には抗ウイルス薬の予防的投与、もしくは先制治療が行われる。今回はこの予防的治療の効果について考察した。
固形臓器移植レシピエントにおけるCMV感染に対する抗ウイルス薬による予防のランダム化比較試験のメタアナリシス[1]では、アシクロビル、ガンシクロビル、またはバルガンシクロビルによる予防は、プラセボ、または無治療と比較してCMV病のリスクを優位に下げた(19の試験、1981人の患者、相対リスク0.42[95%Cl 0.34-0.52])ことを報告している。また、全死亡率(17の試験、1838人の患者、相対リスク 0.63 [95%Cl 0.43-0.92])や単純ヘルペスおよび帯状疱疹ウイルスによる感染症のリスク(9の試験、相対リスク0.27 [95%Cl 0.19-0.40])も低下させた。腎臓に限定してもCMV病のリスク(11の試験、相対リスク0.42[95%Cl 0.31-0.57])、全死亡率(10の試験、相対リスク 0.49[95%Cl 0.24-1.00])ともに低下させた。しかし、腎臓のみのデータは少なくメタアナリシスとしては不十分である。
2011年にスペインの25の移植センターで行われたコホート研究[2]では、単一の腎臓移植を受け、移植前にCMV抗体陽性であった18歳以上の患者(387人)を対象に、予防的抗ウイルス薬投与群(185人 47.8%)、先制治療群(190人 49.1%)、および非介入群(12人 3.1%)の前向き研究が行われた。この研究の結果、予防群の移植後6及び12ヶ月における、CMVアンチゲミア法もしくは定量PCR法で陰性の生存率は、先制治療群に比べ優位に高かった(69%及び56%対52%及び51%)。また、6ヶ月間のCMV感染症のない生存率も予防群は先制治療群に比べて高かった(99%対93%)。予防群で発生した2つのCMV感染症はどちらも抗ウイルス薬投与終了後に発生した。この結果からCMV血清陽性の腎移植患者に対する抗ウイルス薬の予防的投与は先制治療に劣らないと考えられるが、そもそもこの研究で発生したCMV感染症は全体の4%未満と発生率が低いことを考慮しなければならない。
以上の2つの研究から、CMV感染症予防を目的とした腎移植患者に対する抗ウイルス薬投与は有効であると感じた。ただ同じくCMV感染症予防のアプローチである先制治療と比較した場合、対象患者数およびCMV感染症の発症数が少なかったため、どちらが優位かの判断できなかった。そのため、今回の考察では予防的抗ウイルス薬投与が必要かという問いに対して答えるは見つからなかった。これを判断するには2つの治療を比較したメタアナリシスが必要である。日本ではCMV感染症に対する予防的投与は保険収載されていないので、保険適応によって治療の幅が広がると感じた。
参考文献
[1] Antiviral medications to prevent cytomegalovirus disease and early death in recipients of solid-organ transplants: a systematic review of randomised controlled trials./2005/Hodson EM
[2] Cytomegalovirus prevention strategies in seropositive kidney transplantrecipients: an insight into current clinical practice./2015/Mario Fernández-Ruiz
寸評:直接指導できなくてすみません。コンセプチュアルに難しい問題によく取り組みました。この問題は決着が着いていないのでなかなかやっかいです。
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