注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSLレポート
「感染性心内膜炎において、手術前の抗菌薬投与による血液培養陰性化の有無が手術後の再発率に関わるか」
感染性心内膜炎の治療として抗菌薬投与と外科的治療があり、治療効果判定材料として最良とされているのが「血液培養陰性化」の有無である。1 そこで、外科的治療を行う場合、手術前の抗菌薬投与によって血液培養が陰性化することと手術後の再発率に関連があるのかを調べた。
Renzulliらは、1978年から1998年にかけて感染性心内膜炎で手術を受けた患者の予後について、術前の血液培養検査、あるいは術中に採取された組織の培養検査の結果との関連を調べる後ろ向き研究を行っている。2この研究では232人の患者を、血液培養陽性かつ組織培養陰性であった83人、血液培養の結果に関わらず組織培養陽性であった35人、血液培養陰性かつ組織培養陰性であった114人に分けた。更に、治療失敗の定義として、手術から31日以上後の死亡、再手術、弁周囲からの漏出、再感染と定めた。その結果、術後10年に渡り治療失敗を起こさなかった割合について、3グループ間で有意差を認めなかった。(p=0.46)
また、Murashitaらは、1991年から2001年にかけて感染性心内膜炎で人工弁置換術を受けた患者の予後について、培養検査の結果を含めた複数の因子との関連を調べる後ろ向き研究を行っている。3この研究では67人の患者の内、術前の血液培養検査、あるいは術中に採取された組織の培養検査のどちらも陰性であった患者は21人であった。また、培養検査でレンサ球菌属が検出された患者は19人、黄色ブドウ球菌が検出された患者は9人であった。更に、治療失敗の定義として、手術後の死亡、再手術、弁周囲からの漏出、再感染と定めた。その結果、術後3年に渡り治療失敗を起こさなかった割合について、黄色ブドウ球菌グループと陰性グループとの間で有意差を認めなかったが、レンサ球菌属グループは黄色ブドウ球菌グループと比べて有意に高く(p=0.0062)、陰性グループと比べても有意に高かった。(p=0.0002)
上記の2つの研究では術中に採取された組織培養の結果も予後因子として考慮されていて、どちらの研究でも術前の血液培養の結果だけで比較することが出来ない。更に「術前の血液培養が陰性であった患者」で比較されており、これには「血液培養が陽性から陰性になった患者」だけではなく「血液培養が常に陰性であった患者」も含まれている。感染性心内膜炎において起因菌が血液培養で検出できない原因として、最も多いのは血液採取前の抗菌薬投与であり、それ以外ではBartonella spp., Coxiella burnetti, Chlamydia spp., Legionella spp. といった培養困難な菌があると言われている。1抗菌薬投与による場合は血液培養前の陰性化と言えるが、そのような症例ではスペクトラムの狭い抗菌薬の投与が難しく1、血液培養で陽性となった後に抗菌薬治療で陰性化した症例とは予後が異なると考えられる。また、菌の培養が出来ない場合は陰性化とは言えず、培養困難な菌種と培養困難でない菌種の間で予後に差がある場合は、血液培養陰性症例の予後が培養困難な菌種の予後に影響されるため、術前抗菌薬投与単独の効果として評価出来ない。更に、研究では術後合併症等も含んだ治療失敗について比較されており、再発率単独での比較とは異なる。結論として、この2つの研究結果からは、術前抗菌薬投与による血液培養陰性化の有無と手術後の再発率の関係について答えを出すことが出来ない。
1 青木眞(2015)『レジデントのための感染症診療マニュアル第3版』医学書院.
2 Attilio Renzulli, Antonio Carozza, Claudio Marra, et al. Are blood and valve cultures predictive for long-term outcome following surgery for infective endocarditis? European Journal of Cardio-Thoracic Surgery, Volume 17, Issue 3, 1 March 2000, Pages 228-233.
3 Toshifumi Murashita, Hiroshi Sugiki, et al. Surgical Results for Active Endocarditis with Prosthetic Valve Replacement: Impact of Culture-Negative Endocarditis on Early and Late Outcomes. European Journal of Cardio-Thoracic Surgery, Volume 26, Issue 6,1 December 2004, Pages 1104–1111.
寸評:直接指導できなくてすみません。非常に面白いタイトルでしたが、よく頑張りました。最後は議論が少しとっちらかりましたが、命題のポイントはしっかり掴んでいたと思います。「陰性化」っていろいろな現象の混在(菌の違い、採血日の違いなど)なので、二元論的な評価(有意差あり、なし)は難しいかもしれませんね。今後もがんばってください。
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