注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
中心静脈カテーテルの挿入部位により、感染のリスクは変わるか
中心静脈カテーテルは、中心静脈圧の計測という目的を超えて、薬物投与の安定的経路の継続的確保のために広く応用される、侵襲性のある医療行為である。しかし、血管内へのカテーテル留置は、挿入部からの微生物の侵入により、様々な感染症のリスクとなりうる。カテーテルの挿入部位としては、主に鎖骨下静脈、内頚静脈、大腿静脈の3つが知られているが、その挿入部位の違いにより感染のリスクは変化するかどうかを調べた。
まず、2011年のCDCガイドラインを参照したところ、成人患者では、中心静脈アクセスに大腿静脈の使用をさけるべきである、としていた。しかし、3つの経路を比較したカテーテル関連血流感染のリスクは系統的にレビューされていなかった。Paulらは、鎖骨下静脈、内頚静脈、大腿静脈にそれぞれカテーテルを留置した患者における血流感染の頻度を報告した、2つのランダム化比較試験および8つのコホート研究をメタ解析した。結論として、それぞれの血流感染のリスクに有意差は見られないとしているが、この結論は8つのコホート研究のうち、2つの研究の結果を異質性が高いとして除外して得たものであった。
また、2011年から2014年にかけて、ICUの患者3027人の中心静脈カテーテルを、鎖骨下静脈、内頚静脈、大腿静脈に1:1:1にランダムに振り分けた多施設試験によると、それぞれ、8例、20例、および22例で血流感染が認められた。感染リスクは、大腿静脈では鎖骨下静脈よりも有意に高かった。大腿静脈でのリスクは、内頚静脈と同様であった。この試験の結果は、鎖骨下静脈カテーテルが内頚静脈や大腿静脈アクセスのものよりも感染のリスクが少ないことを表している。
前者の研究は2011年に発表された後ろ向き研究で、2つのコホート研究を異質性があるとして除外している点で曖昧であり、後者の研究は2015年に発表された前向きな多施設試験である。よって、以上の2つの論文から考えると、感染のリスクは、鎖骨下静脈から挿入した場合で最も低く、他の2つでは有意差は見られないと考えた。しかし、感染以外の合併症も考慮すると、鎖骨下静脈穿刺は、カテーテルの迷入が多く気胸を合併しやすいことから、重症呼吸不全患者では避けるのがよい。内頚静脈穿刺では、背側を走行する動脈を穿刺する場合があり注意が必要である。大腿静脈穿刺では、活動低下による血栓形成のリスクが上昇するため、DVTの既往のある患者では避けるのがよい。また、内頚静脈、大腿静脈の穿刺では、患者のADLを大きく低下させる。従って、感染のリスクに加え、それらの合併症のリスクも考慮して、十分なインフォームドコンセントに基づいて、それぞれの患者に合った適切な処置をとるべきであると考えた。
<参考文献>
CDC; Guidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related Infections, 2011
The risk of catheter-related bloodstream infection with femoral venous catheters as compared to subclavian and internal jugular venous catheters; Paul et al; Crit Care Med 2012 Vol.40, No.8
Intravascular Complications of Central Venous Catheterization by Insertion Site; Jean-Jacques Parienti, M.D., Ph.D., Nicolas Mongardon, M.D et al; The New England Journal of Medicine; 373;13 nejm.org September 24, 2015
寸評: 直接指導できなくてすみません。前半はとてもよかったです。後半は息切れして議論がとっちらかりましたね。タイトルから浮気せずに議論を集中させるのは大事なのですが、思索にも一種のタフさというか、体力が必要なのですね。将来老人になったとき、会議で議論を引っ掻き回す迷惑な人にならないように今から思考のスタミナを付けましょう。
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