注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
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気管損傷による縦隔気腫で、縦隔炎に移行するリスクはどれほどか
気管が損傷したことで起こる縦隔気腫の縦隔炎のリスクはどれほどか疑問に思い調べることにした。
縦隔気腫は縦隔内にガスが存在する疾患である。縦隔気腫は原因によって特発性や食道穿孔によるものなどがあり、それぞれ続発する疾患のリスクが異なると思われるが、今回は気道が損傷したことによる縦隔気腫を扱う。Thomas Schneider等の後ろ向き研究によると[1]、医原性の気道損傷29例のうち、縦隔気腫は21例で起こっており、傷の大きさや位置にもよるであろうが、気道が損傷すればそれなりの頻度で起こるものと考えられる。逆に、Max Wintermark等[2]によれば51人の重度鈍的外傷患者で縦隔気腫が見つかったが、気道損傷が原因であったのは5人のみであり、縦隔気腫の原因に気道損傷が占める割合は多くないと思われる。
残念ながら、縦隔気腫のうち気道損傷によるもののみを取り上げて縦隔炎のリスクを論じている論文は見つからなかった。Masatomo Ebina等の研究[5]は、少なくとも特発性の縦隔気腫においては抗菌薬の予防的使用は必要ないことを示唆している。研究対象となった患者群には3名のみ気道損傷を伴っていたが、縦隔炎や気道狭窄を起こさなかった。Mario M Rossbach 等[3]によると、気道損傷の患者32例中6人が創部感染や炎症等を起こし、一人が敗血症で死亡している。この研究では抗菌薬の予防的投与については記載がないが、気道の損傷が感染のリスクとなることは示していると思われる。一方で、Chistian A. Kuhne等[4]によれば、比較的傷の小さな気道損傷の患者に対して予防的に抗菌薬を投与した上で非外科的に治療したところ、5人中一人は多臓器不全で死亡、一人は人工呼吸器で肺炎に感染したものの、誰も縦隔炎にはならなかった。また、特発性の縦隔気腫では抗菌薬の予防的使用は必要ないと言われているが、気道が損傷したことによる二次性縦隔気腫の場合、損傷の原因や位置によって感染のリスクは様々であると思われる。その為、少なくとも現状では患者ごとの状況に応じて適応を決定する必要があるであろう。
結論として、今回の検索では気道損傷による縦隔気腫と縦隔炎の関係について、はっきりとしたことはわからなかった。
〈参考文献〉
[1] Schneider, Thomas et al, Management of Iatrogenic Tracheobronchial Injuries: A Retrospective Analysis of 29 Cases. The Annals of Thoracic Surgery, Volume 83, Issue 6, 1960 - 1964
[2] Max Wintermark, Pierre Schnyder, The Macklin Effect: A Frequent Etiology for Pneumomediastinum in Severe Blunt Chest Trauma, Chest, Volume 120, Issue 2, 2001,
[3] Rossbach, Mario M et al, Management of Major Tracheobronchial Injuries: A 28-Year Experience The Annals of Thoracic Surgery, Volume 65, Issue 1, 182 – 186, 1998
[4] Christian A. Kuhne et al, Nonoperative Management of Tracheobronchial Injuries in Severely Injured Patients Surgery Today, volume 35, Issure7, 518- 523, 2005
[5] Masatomo Ebina et al, Management of spontaneous pneumomediastinum: Are hospitalization and prophylactic antibiotics needed? American Journal of Emergency Medicine, volume 35, 1150-1153, 2017
寸評:「気管切開をした患者で」という条件付きをしたのは素晴らしいアイディアです。分数での分母をよくよく意識しましょう。そして、答は明示的でなくても、事例が少なく、感染があまり報告されていないのだから、そのことが命題が「しょっちゅうは起きないんだろうな」と推察させてくれます。データがあるなし、だけでなく、そのデータのないことの意味をメタ認知すればよいのです。
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