今年度から、ベッドサイド実習が前倒しになり、4年生が参加している。BSLに付随するレポートも書いていただいているのだが、もちろん、出来はよくない。
しかし、最初から良い出来であれば実習する必要がなくなるわけだから別に悲観する必要はない。なぜ、ダメなのかを理解し、これからよくしていけばよいのだ。
彼らに聞くと、今までレポートは何度も書いてきたが、「どうやってレポートを書くのか」「どういうレポートが良いレポートで、なにがダメなレポートなのか」を教わってこなかったという。
日本の教育は大学入学選抜型で、入学してから学生をキチンと教えていない。我々教員の怠慢のためであり、反省する日々である。
とにかく、大学入学時点の知識や能力でまともな医者になれるわけがないのだから、能力のある医師を育てるためにレポートくらいまともに書けるようにせねばならない。レポートの作成プロセスが臨床現場での思考プロセスと同期しているからだ(少なくとも我々の課すレポートはそういう構造をしている)。
医学部にはゼミも卒論もないのだが、入学時の偏差値が高いがゆえに、他学部学生より優れていると勘違いしている学生が多い。医学生の作文能力は極めて低いのだ。
それが悪いのではない。事実の認識から改善、進歩が始まる。ただそれだけの話なのだ。
神戸大学医学部附属病院感染症内科でのレポートの作り方を以下に説明する。
1.担当患者から湧き出る臨床的な疑問を定式化し、これをレポートのタイトルとする。よって、タイトルは「疑問形」でなければならない。「○○について」のようなトピックについてお勉強し、物知りになるようなタイトルはだめである。
2.その疑問は、患者の役に立つ疑問でなければならず、単に学生の知的好奇心を満たすようなものではいけない。要するに、患者の役に立つ医者になるための訓練をしているのだ。
3.タイトルをスーパーバイザーと確認したら、岩田がその是非を判定する。医学的に意味があり、患者の役に立つタイトルであればそのまま作成させる。ダメならばやり直させる。学生は質問に答えるのは上手だが、質問をすることそのものは下手だ。しかし、診療とは患者の言葉と体に質問を重ねていく行為そのものなので、これができなければまともな臨床医になれない。
4.タイトルにOKがでたら、A41枚分のレポートを作成してもらう。制限時間は5時間だ。スーパーバイザーに相談しながら、5時間以内に完成させる。
5.なぜ5時間かというと、これ以上時間をかけていたら、いざ医者になったときに患者のなかにある疑問を調べなくなるからだ。理想的には5分とか、30分とかで患者から湧き出る疑問への回答を捕まえる技術が必要だ。しかし、急には無理なので、まずは5時間、1日1時間の作成時間だ。
6.レポートは序論(なぜ私はこのようなレポートを書くのか)、本論(既存のデータではこうなっている)、そして結論(データを受けて私はこう思い、こう結論する)という構成になっていなければならない。序論と本論、本論と結論がつながらないレポートが多い。データにない「当たり障りのない結語」はあまりにも多い(さらなる研究が期待される、、、みたいな)。一文、一文がちゃんと一貫しており、つながっているレポートを書くこと。論理矛盾を自分で見出すこと。一番いいのは、自分で音読してみることだ。他人の言葉をコピペしてならべても、それはあなたのレポートにはならない。
7.調べても、自分の疑問に対する答えが出ないことも多い。検索技術が未熟なのが最大の理由だが、本当に答えがないのかもしれない。いずれにしても、答えが見つからなかった時、タイトルをひん曲げてはならない。適当に分かりやすく、捕まえやすい情報をまとめて、なんとなくレポートに仕上げてはならない。分からないことは悪いことではない。わからないことがわかること、それが「無知の知」なのであり、わからないものをわかったようにごまかしてしまうのが一番よくない。ときに、本当にきちんと調べてもどこにも書いていない疑問もある。そういうときこそ、症例報告を書くのだ。学生のうちに症例報告を書くのは少しも早すぎないし、むしろ学術投稿は学生のうちに必ずやったほうが良いとすら思う。
8.引用文献は必ず付けること。どこから引用した文章なのかを明示し、リプロデュースできるように。おすすめはZoteroの活用である。論文をタイピングして書き写すような「時間の無駄」をしてはいけない。効率的なことは少しも悪いことではない。努力は結果であり、目標ではない。
9.スーパーバイザーには早いうちから相談しておくこと。自分の決定稿を金曜の朝に見せて、それが通ると思うような不遜な心を持ってはダメだ。ダメ出しを出されて1から作り直し、になった場合でもそれができるような時間的余裕を持つのが学生のあるべき誠実さと謙虚さだ。スーパーバイザーが外勤でつかまらない、などという寝言を言ってはいけない。21世紀に住んでいるのだから、携帯なりメールなり活用して、ちゃんとコミュニケーションをとること。
10.金曜日に岩田がフィードバックをかける。グループでシェアするのだから、ちゃんとメンバーと私の分のコピーを用意しておくこと。コピー機くらいは医局で貸す。1つのレポートを作る時間で5倍、6倍の学びが得られるように配慮しているのだ。ここでも効率は大切だ。時間を削ぎ落とし、できるだけ短期間にたくさん学ぶべきだ。
11.できたレポートは名前だけ外してこのブログにアップするから、メールで岩田に送りつけること。未完成でもかまわない。そこから得られる学びは当人、他人ともに大きいのだから。ただし、神戸大医学生のレポートの外的評価は概ね高い。あまりうまくいかないレポートだと思っていても、他の学生や教官、医師からみれば、それなりによくできているように見えているそうなのだ。がっかりしすぎず、かといって驕りもしないことが大切だ。
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