注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
ステロイド服用患者の菌血症のアウトカムはどうなるか
ステロイドは免疫反応に広域に阻害効果をもっているため、急性炎症性疾患や自己免疫疾患に大きく効果があるが、感染症のリスクを高めることが知られている。また、長期ステロイド使用は皮膚の脆弱化や創傷治癒遷延を招くため菌血症のリスクとなると予測した。そのためステロイド服用が菌血症とどのように関わってくるのか気になり調べることにした。ステロイド服用下で菌血症を呈した際の死亡率や入院期間などでステロイド非服用患者と予後に違いがあるか調べたが、死亡率や入院期間に関する文献は見つけることができなかった。そのため、敗血症の罹患率で予後を推定して検討しようと考えた。
ステロイド服薬患者といっても用量や服薬期間など様々であるが、Akbar K Waljie らは[1]2012年から2014年にかけて30日間以内のステロイド投与における有害事象を調べた後ろ向きコホート研究を行った。この研究では16-64歳の150万人の対象患者のうち32万人(21%)が30日以内のステロイドを処方されており、その後31日目から90日目までの有害事象(敗血症、血栓症、骨折)がどの程度あったかが報告されている。この研究の結果、ステロイドを処方された患者の群(ステロイド服用量の中央値は20 mg/日)は30日間以内のステロイドの使用で敗血症の割合が増えた(rate ratio 5.3)。ただし、この研究では64歳以上の成人が対照群に含まれていないこと、極々少量のステロイドを服用している患者の有害事象は調査できてないこと、3つの有害事象だけに絞っていることが限定的である。また、この研究での敗血症の定義は「入院の理由が初期診断で敗血症であった」であるため、どのような感染臓器や原因微生物が多いのかは不明である。更にステロイド服用量との相関も不明である。
また、William G Dixon らは[2]1985年-2003年の間に65歳以上の関節リウマチ患者16207人のうち重篤な感染症に罹患した1947人を症例対象研究した。その結果ステロイドを使用しない患者に比べて、ステロイド5mg使用した患者は3ヶ月間の使用で30%、6ヶ月間の使用で46%、3年間の使用で100%、重篤な感染症にかかるリスクが増えた。ただし、この研究での重篤な感染症というのはかかりつけ医での感染症の診断(ICDcodeによる)による来院であるので、どのような感染臓器や原因微生物が多いのか、どの程度重症であったか、菌血症をおこしたか、が分からない。またデータは65歳以上かつ関節リウマチを持っている患者だけのデータであり、他の年代でのステロイドが感染症に及ぼす影響はわからないうえ、薬のアドヒアランスは考慮されていないので、実際の服用とは乖離があるかもしれない。
以上の2つの研究は多少限定的ではあるが、短期間(30日以内)、 またはそれ以上のステロイドの長期内服は敗血症罹患リスクになるということが言える。つまりステロイド非服用患者と比べてステロイド服用患者は菌血症による死亡率や入院期間も増えることが予測される。ただし服用量、感染臓器や原因微生物も影響すると考えられるため、これらの研究からだけでは結論づけることはできなかった。実際にステロイドによる菌血症のリスク管理や予防を考えるには、服用量や服用期間が与える影響や、原因微生物についても具体的な情報が必要になると考えた。
[1] waljee AK, Rogers MA, Lin P, et al. Short term use of oral corticosteroids and related harms among adults in the United States: population based cohort study. BMJ2017;358:j1415
[2] William G Dixon et al. immediate and delayed impact of oral glucocorticoid therapy on risk of serious infection in older patients with rheumatoid arthritis: a nested case–control analysis. Annals of the Rheumatic Diseases 2012;71:1128-1133
寸評:これは端的に言えば失敗したレポートです。「アウトカム」を論ずる場合、分母は罹患者なのです。よって罹患率など議論してもしようがありません。しかし、分母の間違いはプロの医者や厚労省の官僚でもしょっちゅうやらかしている間違いです。学生のときにそのことに気づく意味はとても大きいですよ!
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