注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
テーマ「血糖コントロールは糖尿病足壊疽の予防に有用か」
糖尿病患者はその多くが足潰瘍および足壊疽を発症し、そのうちの14~18%が最終的に下肢切断を余儀なくされている。そのような下肢合併症の発生が増加している理由としては、ニューロパチー、足のバイオメカニクスの異常、末梢血管疾患、創傷治癒の遅延などいくつかの要因が関連している。1)ここで、根本的に血糖コントロール不良という状態が下肢合併症のリスク因子となっていないか、血糖コントロールを行うことが下肢合併症の予防となりうるのか調べた。
Khalid Al-Rubeaanらは、62681名の25歳以上の糖尿病患者を選択し下肢合併症と関連するリスク因子について後ろ向きコホート研究を行った。2)ここでの下肢合併症には、足潰瘍、足壊疽、切断が含まれている。多変量解析ではオッズ比の高い順に末梢神経障害(OR:8.03 95%CI:5.47-11.78)、インスリンの使用、45歳以上、糖尿病初診時から10年以上経過、網膜症、血糖コントロール不良(OR:1.49 95%CI:1.12-1.98)がリスク因子に挙がり、血糖コントロール不良はリスク因子に含まれた。
Rim Hasenらは、糖尿病患者に対し厳格な血糖コントロールを行った群と寛容な血糖コントロールを行った群を比較したメタ解析を行った。3)下肢合併症について総計10897名の2型糖尿病患者を含む9つの研究を解析している。厳格な血糖コントロールの具体的な目標値は研究によって異なるが、空腹時血糖<126mg/dLもしくはHbA1cの上限値を6-7.5%に定めるというものであった。結果としては、厳格な血糖コントロール群では寛容な血糖コントロール群と比較して下肢切断の合併が減少した(RR 0.65 95%CI:0.45-0.91)。
以上の血糖コントロール不良が下肢合併症のリスク因子となるという後ろ向き研究、厳格な血糖コントロールが下肢切断の合併を減少させるというメタ解析から、血糖コントロールは下肢合併症のリスクを下げる可能性があると考えられる。後者のメタ解析では、レビューした研究が非盲検試験であり、下肢の切断を決定するにあたり血糖コントロールの因子が影響を及ぼしうるので厳格な血糖コントロールのリスク比減少率35%というのは過大評価の可能性がある。加えて研究によって血糖の目標値が様々であることから、どれほどの血糖コントロールが有効かという点においては、低血糖のリスクなどもふまえたさらなる議論が必要である。
<参考文献>
1.ハリソン内科学 第5版
2.Al-Rubeaan K et al. Diabetic foot complications and their risk factors from a large retrospective cohort study. PLoS One 2015 May 6
3.Hason R et al. A systematic review and meta-analysis of glycemic control for the prevention of diabetic foot syndrome. Journal of Vascular Surgery 2016 Feb:22S-28S
寸評:すばらしいですね。血糖コントロールと、血糖コントロールして得られるアウトカムにずれがある、という事実に気づいただけでも学生としては上出来だと思います。医師でも気づいていないことがありますから。
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