注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSLレポート 【脳膿瘍の予後規定因子について】
患者は腺様嚢胞癌の再発腫瘍切除術後の脳膿瘍で、意識状態は改善傾向ではあるがⅠ-2または3と意識障害が見られる。腺様嚢胞癌自体は手術と放射線治療で高い局所制御率と生存率が得られるということで、腫瘍切除後の現在、脳膿瘍が今後の患者のQOLを左右するのではと考え、脳膿瘍の予後規定因子について考察した。
今回主として参考にした論文は、ブカレストのBagdasar-Arseni救急病院で2011年1月から12月の一年間で脳膿瘍の治療を行った患者、平均年齢43.7±18.5歳(6〜80歳の範囲)の女性21人と男性31人を分析したものであった。この52人について、Glasgow Outcome Scale(GOS)を用いて臨床転帰を評価した。回復または独居可能な中程度の障害を予後良好、独居不能な高度の障害、植物状態、死亡を予後不良と定めた。44人(84.61%)の患者が予後良好で、そのうち20人(38.46%)が後遺症もなく回復し、24人(46.15%)は日常生活動作可能な程度の神経障害、または内服治療でコントロール可能なけいれん発作という中程度の障害であった。8人(15.39%)は予後不良でその内4人(7.70%)は日常生活に支障がある程の神経障害または薬でコントロール不能なけいれん発作という重度の障害があり、残り4人の内2人は神経的要因、1人は肺機能不全、1人は心不全によって死亡した。よって今回の研究対象の死亡率は7.7%である。一方、疫学としての脳膿瘍による死亡率は2000年以前の文献では10%、2000年以降の文献では17~32%とされている。この違いは耳・鼻腔からの感染による脳膿瘍の発生率が大幅に減少した一方で免疫不全による膿瘍の発生率が著しく増加したという疫学的な変化によるものと考えられる。
臨床転帰に関わる因子についての単変量解析では、予後不良であった患者には入院時GCS<8、けいれん発作、基礎疾患(チアノーゼ性の先天性心臓病または肝硬変)があった。死亡率についてはGCS<8、免疫不全(HIV感染、血液疾患、その他要因)、基礎疾患、全身感染が有意な寄与因子であった。実際、今回の研究で死亡した患者は全員免疫不全もしくは基礎疾患があった。
これらの中でも、この論文では予後・死亡率と最も関連する因子は入院時のGCSとしており、神経症状発症から入院までの期間が短く神経症状の進展が急速で、神経障害の程度が高い患者では死亡率が高かった。GCSが予後不良に最も関連するという結果は韓国で行われた51人の患者の多変量ロジスティック解析でも示されており、これでは入院時GCS<13では有意に予後が悪かった(p=0.003)。
その他の規定因子として多発膿瘍があるとの報告もある。多発膿瘍は今回の研究では52人中11人(21.15%)であった。過去の研究では多発膿瘍の患者は単発の患者より死亡率が高かったと報告されているが、今回の研究では死亡率に有意差はなかった。過去の報告の結果は、多発した原因として早期治療開始と適切な抗生剤投与がなされなかったことがあり、そのことが死亡率を高めたからだと考えられる。
以上より、死亡率関連因子は最も大きいものとして入院時GCS、その他に免疫不全、基礎心肝疾患、全身感染、予後関連因子は同じくGCS、その他けいれん発作、基礎心肝疾患であると言える。今回の患者ではGCSは13~14で、免疫不全、基礎疾患、全身感染、けいれん発作はないため、この論文で挙げられた予後規定因子には該当するものは無かった。
- 「Brain abscesses: clinical experience and outcome of 52 consecutive cases.」
Radoi M, Ciubotaru V, Tataranu L. Chirurgia (Bucur). 2013 Mar-Apr;108(2):215-25.
- 「Risk Factors Associated with Poor Outcomes in Patients with Brain Abscesses」
寸評 割とうまくまとまっていると思います。時間制限がある中でこのできなら十分でしょう。
Seok-Jin Ko, M.D., Kyung-Jae Park, M.D., Ph.D.,corresponding author Dong-Hyuk Park, M.D., Ph.D., Shin-Hyuk Kang, M.D., Ph.D., Jung-Yul Park, M.D., Ph.D., and Yong-Gu Chung, M.D., Ph.D. J Korean Neurosurg Soc. 2014 Jul; 56(1): 34–41.
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。