注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
テーマ:胆管炎の診断にエコー検査は有用か
胆管炎とは、胆管内に急性炎症が発生した病態である。胆管炎を診断するには全身の炎症所見(発熱、血液検査:炎症所見)、胆汁鬱滞所見(黄疸、血液検査:肝機能検査異常)、胆管病変の画像所見(胆管拡張、胆管結石、ステントなど)が必要となる(1)。このうち画像所見に関して、胆管炎が疑われるすべての症例において最初に行われる検査としてエコー検査があげられる(2)。侵襲性が少なく簡便に行える検査として挙げられるエコー検査の有用性について興味を持ち、調べることとした。
胆管炎のエコー所見としては、胆管結石や腫瘤、胆管拡張、総胆管の肥厚、帯状の低エコー所見、胆道気腫といった所見が見られることがある(3)。胆管炎の原因のうち最も多いのが胆管結石によるものである。エコーで診断された体外式エコー検査における総胆管結石の診断能は文献によって差があり、以下の表に示すものがあげられる(4)。特異度は高いが、感度はばらつきがある。これは胆石の大きさが小さいものはエコーにより検出しにくいこと、胆管遠位部や径の小さい胆管は描出しにくいこと、また術者の技術によっても左右されることが原因として考えられる。
Authors(year) Sensitivity(%) Specificity(%) Accuracy(%) |
Amouyal et al.,1994 25 100 - Abboul et al.,1996 38 100 - Sugiyama and Atomi et al.,1997 63 95 83 Troudsen et al,.1998 68 79 - Chak et al,. 1999 50 100 83 Varghese et al,.1999 38 100 89 Mathur et al,. 2000 46 100 - Laokpessi et al,.2001 30 97 - |
また、上記論文とは別の文献において、救急医が行ったエコー検査で胆管結石のある患者で胆管結石を検出する感度は96%(95%Cl:87-99)、特異度は88%(95%CI:77-95)という報告がある(5)。これはエコー専門医でなくでも胆管結石の検出は可能であることが考えられる。また、胆管結石がエコー上で検出されなかった患者で検出される胆管拡張の感度50%、特異度90%であるという報告がある(6)。総胆管の肥厚や帯状低エコー所見に関しては報告数が少なく(8つ)、判断しがたい(7)。胆道気腫に関しては、データを見つけることができなかった。
胆管炎のエコー所見として挙げられる以上のような所見はいずれも疾患特異性の高い所見ではない。胆管炎の原因のうち頻度の高い胆管結石と胆管拡張に関しては感度が低いものの特異度は高い。以上のことから、胆管炎の診断は全身の炎症所見、胆汁鬱滞所見、胆管病変の画像所見の3つの条件を満たすことで診断が可能となり、この意味においては、血液生化学検査と組み合わせることで、また、他の画像診断法を選択する足掛かりとしてエコー検査が有用性を示すと考えられる。
よって、胆管炎診断におけるエコーは、初診時に行い、他の検査と組み合わせることで有用性を示すと考える。
【参考文献】
(1)F.Miura et al. “Diagnosis and treatment of acute cholangitis and cholecystitis based on Tokyo guidline2013”2015 Japan Biliary Association;29:762-768
(2)内科ポケットレファレンス第2版 日本語監修 福井次矢
(3) Johan S et al.”Imaging and intervention in patients with acute right upper quadrant disease.” Bailliere’s Clinical Gastroenterology,1995 Vol9 No.1:21-36
(4)Gandolfi L et al.“The role of ultrasound in biliary and pancreatic disease”Eurpean Journal of Ultrasound 2003;16:141-59
(5)Rose CL et al. “Ultrasonography by emergency physicians in patients with suspected cholecystitis.” American Journal of medcine 2001;19:32-6
(6)A.W.Majeed “Common ducy diameter as an independent predictor of choledocholithiasis: Is it useful?” Clinical Radiology,1999;54:170-172
(7)Gaines P et al.”The thick common bile duct in pyogenic cholangitis”Cli nical Radiology1991;44:175-7
寸評:レポートでも論文執筆でも臨床的なEBMの実践にしても「何の話をしているか」は極めて大事です。胆管炎と胆嚢炎は似て非なる病気なんですね〜。学生のときにこういう学びをしておくと後々役に立ちます。
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