注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
テーマ グラム陰性菌敗血症性ショックにおける、PMX-DHP施行例と昇圧薬投与のみの例での生存率の比較
初期の敗血症性ショックに対する治療としては、十分な輸液とカテコラミン(ノルアドレナリン、アドレナリン、ドパミン、ドブタミン)の使用が蘇生戦略に使用されている。敗血症診療ガイドライン1)上では、昇圧薬としてノルアドレナリンを第一選択とし、昇圧効果が十分でない場合はノルアドレナリンに加えてバソプレシンの併用をおこなうことが規定されている。グラム陰性菌による敗血症性ショックの場合は、PMX-DHPが日本で1994年に保険適応になって以降敗血症治療の第一選択として行われることが多い。PMX-DHPとは、ブラッドアクセスを介して血液を体外に導出し、エンドトキシンの吸着剤を充填したカラム(ポリミキシンBを不溶性の線維に固定したカラム)に灌流させ、エンドトキシンを吸着除去した後に体内へ戻す血液浄化法である。施行後には血中エンドトキシン濃度の有意な低下に加え、MAPやPaO2 / FiO2比などの有意な改善が見られ、死亡率低下と関連しているという報告もされている2)。しかしこの論文では出版バイアスがかかっており、PMX-DHPが敗血症に対し有効とされる根拠は明らかではない。そこで、グラム陰性菌敗血症性ショック患者に対してPMX-DHPを用いることなく昇圧薬の投与のみで適切な血行動態の維持をおこなった場合と、PMX-DHPを施行した場合で生存率にどのように影響するのかについて比較し、考察をおこなった。
Sawaら3)は、敗血症性ショックを有しPMXまたはバソプレシンで治療された患者を比較するために、後ろ向きコホート研究を行った。PMX-DHPを受けた30例とバソプレシンで処置したのみの30例をマッチングさせた解析をおこない、主なエンドポイントを90日間の死亡率とした。結果として90日生存率は、バソプレシン群では83%、PMX群では53%と、PMX群よりバソプレシン群のほうが有意に高い結果となった(p = 0.008)。この結果から、PMX施行例よりもバソプレシン投与のみの例のほうが90日間時点での生存率は高いことがいえるが、さらに長期間での生存率は不明であり、明らかにどちらが優位とはいえない。
また岩崎ら4)は、下部消化管疾患に対し緊急手術を施行され周術期に敗血症性ショックとなった成人症例28例を対象として、PMXを施行しなかった敗血症性ショック患者の治療成績について後ろ向き研究を行った。昇圧剤にはドパミン、ノルアドレナリン、少量バソプレシン等を用いた。結果としては、28例の院内死亡率は17.9%でAPACHE II から算出した予測死亡率63.3%に比較して良好であった。とくに大腸穿孔患者15 例では、予測死亡率57.7%に対して院内死亡率は0%であった。このことから、下部消化管疾患による敗血症性ショック患者の治療は昇圧剤の使用により十分な血行動態が維持でき、PMX-DHPを施行しなくても良好な成績を示したといえる。
以上より、グラム陰性菌敗血症性ショックにおける、PMX-DHP施行例と昇圧薬投与のみの例での生存率の比較としては、昇圧薬投与のみの例のほうが生存率が高く予後が良いと考えられる。しかしこれらの論文は症例数が少なく後ろ向き研究であるため、これらだけでは明らかな根拠とはならないので、今後さらなる研究と前向きのランダム化比較試験が必要であると考える。
参考文献
1)「日本版敗血症診療ガイドライン」 編集:一般社団法人 日本集中医療医学会 (2016年発行)
2)「Effectiveness of polymyxin B-immobilized fiber column in sepsis: a systematic review.」
Cruz DN, Perazella MA, Bellomo R, de Cal M, Polanco N, Corradi V, Lentini P, Nalesso F, Ueno T, Ranieri VM, Ronco C.
Crit Care. 2007 11(2): R47
3)「Direct hemoperfusion with a polymyxin B column versus vasopressin for gram negative septic shock: a matched cohort study of the effect on survival.」
Sawa N, Ubara Y, Sumida K, Hiramatsu R, Hasegawa E, Yamanouchi M, Hoshino J, Suwabe T, Uchida N, Wake A, Taniguchi S, Takaichi K.
Clin Nephrol. 2013 Jun; 79(6): 463-70.
4)「エンドトキシン吸着療法を用いない敗血症性ショック患者の治療成績」
岩崎衣津、時岡宏明、福島臣啓、實金健、奥格、小林浩之、石井瑞恵 日本救急医学会雑誌. 2012; 23: 92-100
寸評:このレポートの問題点は分かっています。文献検索の問題ですね。PubMedのClinical queriesを活用しましょう、と教えたはずです。思い出しましたか?そうすればもっとよいレファレンスリストが作れ、もっとよい議論ができたでしょう。
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