注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
カテーテル関連血流感染症の際にCandida albicansとnon-albicansではどちらの死亡率が高いか
Candida属はカテーテル関連血流感染症の際に頻繁に見られる。Candida菌血症は死亡率5-71%と高く(1)患者の予後を規定すると考えた。またCandida属には多数の菌種があり、その中でもC. albicansとnon-albicansに大きく分類される。そこでこのCandida属の菌種により死亡率が異なるのか疑問を持ったため、今回のテーマを調べた。
Georgeらによると、2001年から2005年のICU入院患者においてC. albicansとnon-albicansによる血流感染患者56例を対象にした前向き研究(1)でC. albicans血流感染患者の死亡率が52.8%(19/36)であるのに対しnon-albicansの血流感染患者の死亡率が90%(18/20)であった(p=0.005)。このうち中心静脈カテーテル(CVC)を留置していたのはC. albicans感染の患者のうち28例(77.8%)で、non-albicans感染の患者では20例(100%)であった(p=0.002)。この研究ではC. albicans血流感染の患者はアムホテリシンBとカスポファンギンで治療され、non-albicans血流感染の患者はアムホテリシンBを投与され、それぞれの奏効率は29/36(80.6%)と9/20(45%)と有意な差が見られた(p=0.006)。またAPACHEⅡscoreに有意差は見られなかった。
2014年のWang Hらの研究(3)は132例のCandia血流感染症患者について調べた後ろ向き研究で、C. albicans感染群の死亡率が50%(28/56)であったのに対し、non-albicans感染群では31.6%(24/76)と有意な差を認めた(p=0.032)。またCVCの留置率はC. albicans感染群では41.1%(23/56)、non-albicans感染群では63.2%(48/76)と有意にnon-albicans感染群が多かった(p=0.012)。この研究ではC. albicans感染群がAPACHEⅡsocoreや敗血症の発生率、付随する菌血症が多かった。
上記2つの研究ではC. albicans感染群とnon-albicans感染群の死亡率では対照的な結論となった。カテーテル関連血流感染症と関係している可能性のあるCVCの留置率に関しては死亡率の高い群で有意に留置率が高いという傾向も見られなかった。だがCVC留置とCVCからの感染についての関連性については述べられていない。また死亡率の違いは両研究間の薬剤の奏効率が関係していることが考えられる。死亡率に影響すると考えられる重症度は両研究で異なっている。予防的抗真菌薬の投与はどちらの研究でも見られ、Georgeらの研究では投与に有意差は見られなかったが、Wang Hらの研究ではnon-albicans群が有意に抗真菌薬投与が多かった(21.4% vs 31%, p=0.019)。両研究で調べられている症例数も多くないため、死亡率について確実なことは言えないだろう。今回私が調べた限りではカテーテル関連血流感染症に特化して菌種間の死亡率を比較した論文は見つけられなかった。
以上より今回のテーマであるカテーテル関連血流感染症の際にC. albicansとnon-albicansの死亡率の違いについて結論付けることはできなかったが、抗真菌薬の予防的投与や薬剤の奏効率が、死亡率に関与している可能性があると考えた。また重症度が同程度であった場合、non-albicansの方が死亡率が高くなるのではないかと思う。
【参考文献】
(1) HORN, David L., et al. Epidemiology and outcomes of candidemia in 2019 patients: data from the prospective antifungal therapy alliance registry. Clinical infectious diseases, 2009, 48.12: 1695-1703.
(2)DIMOPOULOS, George, et al. Candida albicans versus non-albicans intensive care unit-acquired bloodstream infections: differences in risk factors and outcome. Anesthesia & Analgesia, 2008, 106.2: 523-529.
(3) Wang H, et al Antibiotics exposure, risk factors, and outcomes with Candida albicans and non-Candida albicans candidemia. Results from a multi-center study. Saudi Med J. 2014 Feb;35(2):153-8
寸評:これも良いレポートです。テーマ設定も良いですし、議論も中立的で、はっきりしない問題のはっきりしないっぷりをうまく表現していますね。
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