注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
耳鼻科術後の細菌性髄膜炎のリスク因子としてはどのようなものがあるか?
耳鼻科領域の手術は硬膜を障害する危険性を含むため細菌性髄膜炎の直接的な感染経路になりやすい。HowitzはデンマークのNational notification system of bacterial meningitisとNational Patient Registry(1996〜2009)について精査した。それによると全ての細菌性髄膜炎を合併した手術の中で術後10日以内で最も合併したのはENT手術(ear,nose and throat surgical procedures)でありこれは比較対象グループ(内視鏡検査と内視鏡術)の11倍の頻度で起こっていた。また全ての細菌性髄膜炎を合併した手術のうち術後10日以内の細菌性髄膜炎の発症が0.64/100000手術 に対して術後10〜90日以内の発症では0.20/100000手術 であったことから術後10日以内の発症の頻度の方が高いことがわかった。これを踏まえてENT手術14例[6例は内耳か中耳の手術(2例:前庭神経鞘腫 1例:真珠腫性中耳炎 1
例:人工内耳インプラント術 1例:アブミ骨切除術 1例:乳突洞削開術)、7例は副鼻腔の手術(2例:ポリープ切除 2例:機能的内視鏡下副鼻腔手術 1例:内反性乳頭腫除去術 1例:詳細不明の副鼻腔術 1例:鼻腔内の腺癌除去と放射線照射)、1例は口蓋垂口蓋咽頭形成術]のすべての細菌性髄膜炎に対する相対危険度は0.88[95% CI 0,50-1,42]でこの結果は細菌性髄膜炎の術後の合併に関して有意ではないが、術後10日以内に起こった細菌性髄膜炎8例に関しての相対危険度は15,31[95% CI 7.29-32.13]であった。また中耳と内耳の手術による細菌性髄膜炎の相対危険度は1,04[95% CI 0·47–2·32 ]であり副鼻腔の手術後に起こる細菌性髄膜炎の相対危険度は4.56[95% CI 2·17–9·57] であった。また脳神経外科領域ではあるが、van Aken MOらは228の症例数の経蝶形骨洞手術において術後の髄液漏が起きた7人の患者のうち6人の患者で細菌性髄膜炎が起きたのに対して術後の髄液漏が起きなかった221人中細菌性髄膜炎が起きたのがたった1人であったことを報告した(P < .00001)。このことは術後の髄液漏が細菌性髄膜炎のリスク因子であることを示す。
今回、耳鼻科領域の手術がすべての細菌性髄膜炎の合併に有意であることを示した文献は見つけられなかったが術後10日以内の急性の発症という点に限れば耳鼻科領域の手術は細菌性髄膜炎のリスク因子であると言える。特に今回、調べられた耳鼻科領域中では副鼻腔炎の手術の相対危険度がもっとも高かったが人工内耳の移植術等、手術内容ごとに相対危険度を網羅的に比較した文献は見付けられなかったので何が最も危険なリスク因子かとは言及することはできなかった。また術中の髄液漏は耳鼻科領域の手術においても細菌性髄膜炎の大きなリスク因子としてあげられるのではないかと考えた。
<参考文献>
1. The risk of acquiring bacterial meningitis following surgery in Denmark, 1996–2009: a nationwide retrospective cohort study with emphasis on ear, nose and throat (ENT) and neurosurgery/M. F. HOWITZ and P. HOMØE
2. Risk factors for meningitis after transsphenoidal surgery/ van Aken MO1, de Marie S, van der Lely AJ, Singh R, van den Berge JH, Poublon RM, Fokkens WJ, Lamberts SW,
寸評:よいと思います。結局、目指すゴールは見つからなかったのですが、そのことに自覚的で抑えが効いたレポートが良いレポートなのです。情報がないということは、研究のテーマ発掘になりますし。
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