注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科レポート
再発する尿路感染を予防するにはどうしたらよいか?
再発性尿路感染症は6ヶ月以内に2回以上、または1年以内に3回以上の症候性エピソードを呈するとされる。1)感染症内科での実習の際に再発する尿路感染を予防する方法があるのかについて疑問に思ったので、それについて考察した。
18歳から30歳の再発性尿路感染症の既往のあるアメリカ人女性229人とコントロール群253人を対象とした症例対象研究では、リスクファクターとして、性交渉の頻度、殺精子剤の使用、新しい性的パートナーをもつこと、初めてUTIを罹患した年齢が15歳以下であること、母親にUTIの既往があることを報告している。2)このことから、再発性尿路感染症を予防するには、性生活を見直すことや殺精子剤の入った製品をできるだけ使用しないことといった患者の生活習慣に対してアプローチする方法があると考えられる。実際に患者の生活習慣にどの程度医師が介入できるか不確実ではあるものの、予防戦略としては有効な可能性がある。
次のアプローチとして抗菌薬の服用がある。服用方法は、継続服用、性交渉後の服用、患者主導の服用の3つに分類される。
継続服用はST合剤、ニトロフラントインで効果があるとされている1)一方で、耐性菌の出現が指摘されている。再発性尿路感染症の既往のあるオランダ人女性252人を対象とし、12ヶ月間毎日ST合剤を服用する群と2日に1回ラクトバチルスを服用する群で耐性菌の出現を検討したランダム化比較試験では、ST合剤を服用した群において使用して1か月でST合剤に対する耐性をもつ尿中E.coliの割合は上昇し、12か月服用すると尿中のすべてのE.coliでST合剤に対する耐性が獲得された。全期間を通してラクトバチルスを服用した群で耐性をもつ尿中E.coliの割合が上昇することはなかった。3)これはST合剤の長期服用は耐性菌の出現に関与することを示唆している。
性交渉後の服用に関しては、健康な若年アメリカ人女性27人を対象にした性交後のST合剤服用群またはプラセボ服用群で6ヶ月間の予防効果を比較した二重盲検ランダム化比較試験で、ST合剤服用群はプラセボ服用群よりも発症率が低く、予防効果があったという報告がある。4)よって性交渉後の服用は性交渉に関連して再発する場合に予防効果がある可能性がある。
患者主導の服用については、再発性尿路感染症の既往がある18歳以上のアメリカ人女性172人を対象に症状を発現した際にオフロキサシンもしくはレボフロキサシンを患者自ら服用する効果を検証した前向き試験において患者の90%以上で臨床的・微生物学的治癒効果があった。5)しかしながら、この予防法は再発性尿路感染の明確な既往があり、治療に対して意欲的で医師との良好な関係が築かれていなければ困難であると考えられる。
これらの結果より、長期服用は耐性菌の出現の危険があるので1ヶ月以上の服用は避けるべきであり、性交渉後の服用は再発性尿路感染症の原因が性交渉による可能性が最も高い場合に有効であると考えられる。患者主導の服用は効果を示す可能性があるが、適用できる患者に制限があることが考えられる。
以上より、再発性尿路感染症を予防するためには、患者から再発の頻度、生活習慣などをつぶさに聴取し、抗菌薬を使用する場合は耐性菌出現や薬剤の副作用のリスクと治療によるベネフィットの兼ね合いを十分に考慮のうえで処方するなど、患者の個々の状況に応じたアプローチをするべきであるといえる。
【参考文献】
1)Thomas M Hooton. Recurrent tract infection in women. In: UpToDate (Accessed on June 12, 2017.)
2)Scholes D, Hooton TM, et al. J Infect Dis 2000; 182:1177.
3)Beerepoot MA, ter Riet G, Nys S, et al. Arch Intern Med 2012; 172:704.
4)Stapleton A, Latham RH, Johnson C, Stamm WE. JAMA 1990; 264:703.
5)Gupta K, Hooton TM, Roberts PL, Stamm WE. Ann Intern Med. 2001;135(1):9.
寸評:データはきちんと調べていますし、序論本論結論までうまくまとまっていると思います。
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