注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
結核性ぶどう膜炎の治療においてステロイド併用は有効であるか
ぶどう膜炎の原因疾患としての結核は、1996年に一時的に増加し、2000年以降は減少している。しかし、わが国の結核患者は未だに年間2 万人近く存在し、結核性ぶどう膜炎も散見されている。結核と診断された症例の中で眼病変を合併しているのは1.4%と報告されており、特にHIV陽性症例に頻度が高いとされている1)。後藤は1990年から1999年までの10 年間に診断された1358例のぶどう膜炎全体に占める結核性ぶどう膜炎は1.3%と報告しており2)、頻度は決して高くはないが、忘れてはならない疾患である。結核性髄膜炎や結核性心外膜炎の治療において抗結核薬とステロイドの併用により死亡率が下がるとされているが、結核性ぶどう膜炎の治療においては抗結核薬とステロイドの併用は果たして有効だろうか。
Hani S Al-Mezaineらは1998年1月から2006年5月にかけて、結核性ぶどう膜炎と診断された51人の患者、73の眼を対象に後ろ向き研究を行った3)。全患者に対して最初の2ヶ月間、イソニアジド300mg /日、リファンピシン600mg /日、エタンブトール15mg / kg /日、ピラジナミド25-30mg / kg /日といった抗結核療法を行った。その後、リファンピシンおよびイソニアジドをさらに4〜7ヶ月間使用した。さらに、全患者にプレドニゾン1mg / kg /日を投与した。コルチコステロイド療法の期間は2〜8ヶ月の範囲であった。経過観察期間は6〜96ヶ月であった。経過観察期間中、全ての患者の眼は再発を伴わずに炎症の解消を示し、視力の有意な改善が見られた(p=0.007)。また、そのうち黄斑浮腫を有する23人の患者、31の眼の黄斑部の中心の厚さ(CMT)を測定したところ、治療前と治療後を比較すると有意に減少していた(p<0.001)。
またBansal Rらが行った後ろ向き研究4)では、結核性ぶどう膜炎の患者のうち216人(A群)がコルチコステロイドを併用した抗結核療法(最初の3~4ヶ月はイソニアジド5mg / kg /日、リファンピシン450mg /日、エタンブトール15mg / kg /日、ピラジナミド25~30mg / kg /日。その後、リファンピシンおよびイソニアジドをさらに9〜14ヶ月間使用した。経口コルチコステロイドは、初めは1mg / kg /日で投与され、4〜6週間にわたって漸減させる。)を受け、144人(B群)はコルチコステロイドのみを投与された。その結果、経過観察期間(A群は平均31ヶ月、B群は平均24ヶ月)での炎症の再発率はA群で15.74%、B群で46.53%と有意に差があった(p<0.01)。
一つ目の論文から、結核性ぶどう膜炎の患者に対しては何もしないより治療を行った方が良いということが、二つ目の論文から、結核性ぶどう膜炎の治療はステロイドを単独で使用するより抗結核薬と併用した方が良いということが分かった。しかし、抗結核薬単独療法と、ステロイドを併用した抗結核薬療法の比較をした論文を見つけることが出来なかったため、今回結論を出すことはできなかった。
1) Mandell GL, Bennett JE, Dolin R: Ocular tuberculosis, Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases, 7th ed, Livingstone Elsevier, Philadelphia, 2010, 1415.
2) 後藤 浩:結核性ぶどう膜炎の現状と診断, 治療上の 問題点. 日本眼科紀要. 2001 ; 52 : 461_467
3) Al-Mezaine HS, Al-Muammar A, Kangave D, Abu El-Asrar AM. Clinical and optical coherence tomographic findings and outcome of treatment in patients with presumed tuberculous uveitis. Int Ophthalmol. 2008;28:413–23.
4) Bansal R, Gupta A, Gupta V, Dogra MR, Bambery P, Arora SK. Role of anti-tubercular therapy in uveitis with latent/manifest tuberculosis. Am J Ophthalmol. 2008;146:772–9.
寸評:いつも申し上げていることですが、「論文を見つけることができなかった」ことそのものが1つの学びなのです。なんかカスッてるだけの論文を針小棒大に無理やり結論にもっていくよりも(医者にもそういう人は少なくない!)、わからないことがわかる、ということが大事です。結核とステロイドはシンプルなようで難しい命題なのです。
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