今週は、IDATENケースカンファレンスに出すプレゼンの予演をかなり濃密にやった。せっかくなので備忘録としてまとめておきたい。神戸大やそのたすき掛けの研修医たちが失敗している典型的な「失敗のパターン」もここにまとめておいた。
1 ケースをプレゼンするときは、かならずテイクホームメッセージをもつこと。ただ珍しい病気とか病原体がいました、はメッセージではない。結語が「〇〇の症例を経験した」は最悪である。
2 例えば珍しい疾患を診断した場合は、一般診療でどのような理路でその珍しい病気を疑うべきなのか、をテイクホームメッセージにすればよい。仮にごちゃごちゃやってるうちにたまたま偶然見つかっちゃった場合であっても次回であればどのように「必然的に」診断できるかその理路を構築し、示さねばならない。さもないと会の翌日あちこちで不毛なシマウマ探しが始まってしまう。
3 治療に言及したいなら、最良なのは「失敗例」だ。失敗とその原因精査ほど大きな学びはない。武勇伝に学びは少ない。仮に成功例の場合は、標準治療が存在しないか、標準治療が使えないという文脈で「このような可能性もある」という萌芽を示すのは「あり」だ。標準治療を敢えてしないという冒険をするのは発表以前に非倫理的。
4 発表は序論、本論、結論とストーリーを作ること。聞き手のことを考え、話をあっちにいったりこっちにいったりさせない。現病歴の中で論文情報を出したりすると何が言いたいのかがわからなくなる。
5 引き算の論理をうまく使うこと。症例の詳細を事細かにすべて述べる必要はない。irrelevantな情報は捨象し、質問されたら答えるくらいでよい。服薬歴もスライドで提示しつつ、関連するものにのみ言及すればよい。発表に濃淡をつけること。
6 来す、呈する、という医学ジャーゴンは使わないこと。普通の言葉で表現できることは一般的な日本語で表現すればよい。医学っぽい雰囲気を醸し出そうとしないこと。
7 なぜそうしたのか、という判断の根拠を提示すること。〇〇という検査をした、ではなく、なんのために検査したのかを明示する。どうしてその薬を使ったのか根拠を述べる。これは普段の診療でも根拠を持つべき、という意味だ。唐突に「CT所見では」と根拠ない検査結果が示されると面食らう。
8 診断根拠は厳密に行い、「自分が間違っている可能性」はあらゆる方面から検証すること。座長が「それ、診断間違ってると思いますよ」と言わねばならないときほど悲しいことはない。「〇〇に矛盾しない」は〇〇の診断と同義ではない。
9 治療効果の根拠についてはさらに厳しく検証すること。一例報告で「この治療が効いた」と結論づけるのは、難しい。確信が持てないのならあくまで「効いた」は仮説の一つくらいに控えめに論ずること。
10 発表のリミテーションに言及すること。リミテーションは科学的妥当性を高めこそすれ、決して低くはしない。万能をアッピールした夜郎自大な発表は見苦しい。
11 ケースに関係ない文献情報はできるだけ使わないこと。発表は聞き手のためにあり、演者がこんだけ勉強してきたぞ、をアッピールする場ではない。一般に勉強したことの10〜30%を提示するくらいで控え目で説得力のあるプレゼンになる。情報満載にしても聞き手はほとんど覚えていない。
12 ケースに関係ないけど、どうしても提示したい情報があれば「余談」としてコネタを提供するのはあり。それでも全体の流れを壊さない程度に短めに。ちょっと笑いをとるときには有効。
13 マンガ、アニメ、ドラマ、映画ネタはうちわの小さな会なら許容されるが、そうでないときは使わない方が得策。インナーサークルで笑えるネタも、外から見ると痛々しい。
14 プレゼンは何度も練習すること。スライド作りに一所懸命になる人は多いが、プレゼンを練習してない人は驚くほど多い。原稿棒読みは論外。抑揚をつけ、沈黙を効果的に用い、聴衆を引き付けなければ意味がない。練習9、スライド1くらいのバランスで。スライドは舞台の背景みたいなもの。背景がなくても劇は成立するが、役者がヘボでうまくいく可能性はゼロだ。
15 質疑応答こそが発表のハイライト。よって、想定問答は何度もコリーグや上司とやっておくこと。慣れてくれば、向こうが聞いてきそうな質問はだいたい予見できる。こういうところで文献情報を使うとさらに効果的。英語の発表の時はとくに十分に練習しておく。
16 プレゼンは聞き手のほうを向いて。スライドはできるだけ見ない。ポインターで喋ってるところをグルグルささない(あれはみっともない)。聞き手と呼吸を合わせることができれば最高。
17 時間厳守。とくに自分の後でプレゼンターがいる場合は延長はご法度。自分が前座で、あとに「トリ」が控えている場合は論外。質疑応答の時間を十分に残し、少し早めに終わるくらいでちょうどよい。そのためにもリハーサルを何度もすること。もしどうしても間に合わなそうな時はスライドを割愛して結語まで時間以内に持っていくこと。
18 アニメーション、動画はできるだけ使わない。トラブルの元。どうしても使うのなら、その動画がうまく動かなかったときにもプレゼンが続けられるようプランBをもっておくこと。発表データは何種類かバックアップしておくほうがよい。
19 口頭で伝えられることはできるだけ口頭で伝えること。なぜ、その言葉がスライドに文字化されていなければならないのかよく考えること。あまりに多くの無駄な言葉がスライドに連ねられている。
20 論文化できる場合はかならず(英語で、pubmedに収載されている雑誌に)論文化すること。論文化する価値のない症例は発表する価値もない。発表は一瞬。論文は永遠だ。
21 利益相反。背中のファスナーを開けると中から企業のMRが飛び出してきそうなプレゼンは絶対にしないこと。きちんとした医療者からは絶対に信用されなくなる。短期的な(金銭的)利益のために長期的なクレディビリティーを失うのは賢明な態度とは言えない。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。