注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
局所陰圧閉鎖療法は感染リスクを上昇させるのか?
局所陰圧閉鎖療法(Negative-Pressure Wound Therapy:以下NPWT)とは、創傷を閉鎖環境とし、そこに陰圧ドレナージを加えることで創縁の引き寄せ、肉芽形成の促進、血流の増加、組織の浮腫軽減、浸出液の排出などの効果により創傷治癒を促進させる物理療法である[1][2]。NPWTが通常のドレッシングによる創管理と比べて感染リスクを上昇させるのかを疑問に感じたのでテーマとした。
Blum MLらの後ろ向きコホート研究によると、229件の脛骨開放骨折のうち166件にはNPWTによる創傷管理、63件には従来のドレッシングによる創傷管理を施されていた。深部感染率は前者では18.4%(14件)、後者では20.6%(13件)となり、NPWTでは有意に感染率が低下した[3]。(P=0.01)
また、Grauhan Oらの前向き研究では、中央胸骨切開術後最初の6〜7日目に清潔で閉鎖した150人の患者のうち半数にNPWTを、残りを対象群として従来のドレッシングによる創傷管理を施した。90日以内での創傷感染症の発生確率を比較したところ、前者では4%(3人)後者では16%(12人)となり、NPWTでは有意に感染症発症率が低下した[4]。(P=0.0266、オッズ比4.57)
この理由としては、治療に要する時間が短縮される[2]ことで感染の機会が減ることと、常にドレーンから滲出液を排出し続けることで創での菌繁殖を抑えられることなどが考えられる。
しかし、FDAによるとNPWT使用例で創傷からの感染の悪化が報告されている[5]。この理由としては、血餅や膿によりドレーンが閉塞してしまった場合に閉鎖環境下で創部の細菌が繁殖するということが考えられている。
結論として、NPWTは感染リスクを上昇させずむしろ低下させることが分かった。ただし、閉塞の危険性を減らすために創部の洗浄やデブリードマンを行なうべきである。また、NPWTに用いられる装置は複数の会社から販売されているため、この結果は必ずしも全てのNPWTに適用されない可能性がある。
参考文献
1.Ann Plast Surg. 1997 Jun;38(6):563-76; discussion 577.
- Up to date 2017.04.13 “Negative pressure wound therapy”
3.J Thorac Cardiovasc Surg. 2013 May;145(5):1387-92. doi: 10.1016/j.jtcvs.2012.09.040. Epub 2012 Oct 27.
4.Current Problems in Surgery Volume 51, Issue 7, July 2014, Pages 301–331
5.FDA 2017.04.13 “UPDATE on Serious Complications Associated with Negative Pressure Wound Therapy Systems: FDA Safety Communication” (www.fda.gov/MedicalDevices/Safety/AlertsandNotices/ucm244211.htm#summary)
寸評:一見すると悪くないレポートですが、スタディーの解釈とか基本用語がいろいろ間違ってましたね。でも、まあ最初はそんなものです。少しずつ業界用語に慣れていきましょう。オッズ比とか、前向き、後ろ向きみたいなところから。誰でも最初はビギナーです。
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