D「今日びの研修医は、褒められたくらいでは心が動かない。それに、サンドイッチだの何だのの、テクニックで褒められてることも察知している。若者の感受性をバカにしてはいかん」
S「案外、若者に詳しいんだよな、D先生は」
D「なんか言ったか?」
S「いえ、ナッシング」
D「研修医の「あの手技」「この判断」は叱ってもいい。叱るか、叱らないかよりもずっと大事なのは研修医自身の存在承認だ」
S「存在承認?」
D「そう、たしかに、今、F先生のパフォーマンスは悪い。それはF先生に分かってもらう必要がある。しかし、チームの一員として、F先生の失態は指導医が必ず最後まで守り抜く。そしてF先生のパフォーマンスがよくなるまで、辛抱強く、根気よく待ち続ける。絶対に諦めない。そう言い続けるんだ」
S「なんか、カッコイイですね」
D「まあ、所詮は研修医だ。過度に期待しない、というのも大事だ」
S「急に現実的になりましたね」
D「過度に期待するから、できないとがっかりするんだ。所詮、研修医なんてそんなものだ、と気楽に構えてみろ。楽になるぞ。優秀な人材に育て上げようとするから焦るんだ。前にも言ったろ。気長に成長を待て。期待しろ。その期待がわかるようにアピールしろ。そうすれば、小手先のサンドイッチなんて使わなくたって大丈夫だ。特に日本人は空気を読むからな」
S「なるほど」
D「すでに教えたように、日本の教育界は性急に結果を出そうとしすぎる。人によって習得の時間は違うんだ。数学、英語、社会。多くの生徒は「わかる前に次に行く」性急な教育制度のためにその科目で落ちこぼれ(たかのように錯覚し)、その教科が苦手になり、その教科が嫌いになる。もったいない。辛抱強く、何年でも待っていれば習得できたかもしれないのに。文科省の学習指導要領、あれが諸悪の根源だ」
S「森友学園の地面の下に、ゴミと一緒に埋められても知らないですよ。でも、そうはいっても、やっぱりパフォーマンスが悪い研修医だっているじゃないですか。どうしても上手く成長できない研修医はどうしたらいいんですか?」
D「そんときは転職を勧めろ」
S「はあ?」
D「いいじゃないか。医者だけが人生じゃない。転職するのだって大事なアドバイスだ。まったく医者に向いてない奴に無理に医者を続けさせるのは残酷だろ。さっさと方針転換したほうが良い」
S「でも、進路を諦めるというのは、、、」
D「キャリア・チェンジに冷たすぎるんだよ、日本社会は。失敗、方針転換に不寛容すぎるんだよ。だから、官僚は間違いを頑として認めたがらないだろ。いいじゃないか失敗したって。いいじゃないか、転職したって。やり直しの効かない失敗なんてないんだから」
S「過激だなあ、D先生」
D「もう、この連載も90回だからな。巻きに入るぞ〜〜〜」
第90回「褒めるな、認めろ」その2 終わり
続く。
この物語はフィクションであり、DとSも架空の指導医です。
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