D「検査をオーダーするとき、研修医に繰り返し伝えることがある」
S「なんですか?」
D「電子カルテは自動販売機じゃないってことだ」
S「はあ?」
D「検査のオーダーボタンを押すだろ。検査結果が出て来る。まるで自販機でボタンを押して、ジュースが出てくるように」
S「なんか、文章が村上春樹チックですね」
D「最近、新作読んじゃったからな。それはともかく、検査の場合は結果が自動で出てくるんじゃない。採血やら検体の移動、検体の処理など、たくさんの医療者のたくさんの手間がかかっている。画像検査も同様だ」
S「ああ、たしかに」
D「検査を乱発する研修医は、ああいう医療者の苦労を全然顧慮してないだろ」
S「そうですね」
D「そういう奴らが、3年目くらいになると技師さんとかにタメ口きくようになるんだよ。情操教育上も非常によくない」
S「はい」
D「それだけじゃあ、ない。検査というのは患者にとっても負担になるし、苦痛にもなる。採血、内視鏡、全部そうだ。画像検査では放射線曝露も馬鹿にならん。病気してる身では部屋からの移動だけでもしんどいものだ。ご高齢の患者さんなど、検査が2つ3つ続くだけでもうヘトヘトになってるだろ」
S「たしかにそうですねえ」
D「そういうことも考えて、本当に必要な検査かどうかを吟味せねばならんのだ」
S「たしかに」
D「だから、検査をオーダーするときは、その背後で努力している医療者の苦労を正当化させるかどうか、必ず確認しろと言っている。その検査の結果が、患者のマネジメントに影響をあたえるのか?単に自分の知的好奇心を満足させるために「とりあえず」「ついでに」出してないか?」
S「ああ、それ、ぼくも耳が痛いです」
D「CTをオーダーするときは、自分も患者と抱き合ってCTに入って放射線曝露を受けてでも取りたい、それくらいの覚悟がないとCTオーダーすんなって言っている」
S「無茶苦茶ですけど、たしかに説得力ありますね」
第82回「無駄な検査を減らそう」その2 終わり
続く。
この物語はフィクションであり、DとSも架空の指導医です。
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