注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
患者が突然尿閉を来した場合のアプローチはどのように行えばよいか?
尿閉とは、尿が膀胱内にたまっているのに自身で排尿できない状態のことで、無尿とは異なる病態である。急性に尿閉を来す原因としては、①流出路障害によるもの②神経障害によるもの③排尿筋不全によるものの大きく3つに分かれる。
日本泌尿器科学会によると、急性尿閉は男性:女性=13:1と圧倒的に男性に多く、原因として、前立腺肥大・前立腺癌が50.5%、神経因性膀胱が18.4%、薬剤による排尿筋不全が5.8%となっている[1]。男性では、BPHや前立腺癌が59.5%、神経疾患などによる排尿筋収縮力低下・神経因性膀胱が16%、薬剤性排尿筋収縮力低下が4%となっており、一方女性では、神経疾患・病変による排尿筋収縮力低下や神経因性膀胱が48.4%、薬剤性排尿筋収縮力低下が16.1%、心因性が9.6%、子宮筋腫によるものが6.5%となっている。このように、まず患者の性別によってある程度予想される原疾患が絞れる。患者が突然尿閉を来した場合、泌尿器科医にコンサルトし、カテーテルを用いて膀胱内圧を下げることが多いが、泌尿器科医にコンサルトできない場合などでは、カテーテル留置期間の予想や治療のためにもカテーテル処置の前に原疾患に対する鑑別を行うことが重要となる。その際、先ほどの急性尿閉の原因となる3つの病態を鑑別するために、以前の尿の頻度や血尿の有無などの病歴の聴取や市販薬を含めた服薬リストを作ることとともに、直腸診を行うことが特に男性では有用である。Clausらの行った、直腸診によって計測した前立腺のサイズと、経直腸超音波による前立腺の測定サイズに相関があるかを比較した4つのStudyをメタアナリシスでは、前立腺の大きさが40mlを超えると直腸診で過小評価されることが多いものの、それ未満であれば直腸診と経直腸超音波において測定サイズに強い相関があることが示された(Spearman相関係数r=0.4~0.9)[2]。さらに、男性でも女性でも、直腸診を行う際、下部尿路閉塞と神経因性膀胱の鑑別のために、肛門周囲をこすると肛門括約筋が収縮するanal winkや、会陰部知覚、肛門括約筋のトーヌス、随意筋収縮力などを確認することで、下部尿路閉塞と神経因性膀胱の鑑別に大いに役に立つ[3]。
また、腹部超音波も重要なツールである。腹部超音波で膀胱貯留の評価や尿管ジェットの存在を確認することで、上部尿路閉塞による尿閉を除外することができるとともに、カテーテルを入れた後に適切にはいっているかや、腫瘤があるかを簡便に確認できる[4]。女性の場合、数は少ないが、不正出血なども認められる場合などは、子宮筋腫の確認も腹部超音波で行うことができる[5]。
以上のことから、突如尿閉を来した患者に対して、性別、病歴聴取はもちろんのことだが、市販薬などを含めた薬剤歴のリストアップ、尿カテーテルを入れる前に直腸診や腹部超音波を用いたアプローチを行うことが、原疾患の鑑別に非常に有用であると考えられる。
[1] Nobutaka Shimizu,et al. CLINICAL STUDY OF ACUTE URINARY RETENTION. Nihon Hinyokika Gakkai Zasshi. 2006 Nov; 97(7):839-43
[2] Roehrborn CG, et al. Correlation between prostate size estimated by digital rectal examination and measured by transrectal ultrasound. Urology. 1997 Apr;49(4):548-57.
[3] 上田剛士. ジェネラリストのための内科診断リファレンス. P375-376
[4] John R, et al. An Evidence-Based Approach To Emergency Department Management Of Acute Urinary Retention. Emergency medicine practice. January 2014, Volume 16, No.1
[5] Elizabeth A Stewart, MD, et al. Uterine leiomyomas (fibroids): Epidemiology, clinical features, diagnosis, and natural history. In UpToDate, Post TW (Ed), UpToDate, Waltham, MA. (Accessed on Feburary 02 2016.)
寸評:情報量としては悪くないですが、レポートの流れはもう一つです。とくに薬剤歴についてはむしろ最初に論じるべきではないでしょうか。非侵襲的なことから侵襲的なことへ移行していくのが医療の基本ですから。回診で述べたように大切なのはアルゴリズムであり、アルゴリズムとは要するに時間の前後関係に鋭敏になるということです。
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