D「どうしたんだね、爽やかな笑顔で研修医に人気の若手指導医ナンバーワンの呼び声が高い、頭脳明晰、学力優秀、IQが高く、気位も高く、そのプライド故に、しくじった時に心が折れるのも容易なガラスのエース、S先生!」
S「、、、、」
D「なんだ、いつもみたいに噛み付いてこないのか?言い返してこないのか?カマーン!」
S「、、、今はそんな気にはとてもなれません、、、、」
D「どうした、まじで落ち込んでんのか?珍しいなあ。繊細なガラスのエースに見えて、俺の罵倒にもちゃんと耐えるだけの胆力があると思っていたのに」
S「胆力なんてないですよ。他の力もありませんがね」
D「なんだなんだ、珍しいな。「他の力」とはなんのことだ?」
S「政治力ですよ、政治力。ぼく、ずっと初期研修医の教育担当責任者をやってたんですよ。教育熱心で、教え方もうまくて、研修医の悩み事にも親身になって相談に乗っていたのに、、、、人事異動でこんど僕、初期研修医担当から外されちゃうんです」
D「どうした?病院の金でも使い込んだか?」
S「使い込みませんし、使い込むスキルもありませんし、そのネタは前にもやりましたよ」
D「やっといつものテンポで言い返せるようになってきたな」
S「そうじゃなくて、ネポティズム(縁故採用)ですよ。病院長の身内がうちの病院に赴任することになって、この人が研修医担当になったんです。それでぼくは追い出されたってわけで。D先生とも仲が良いというデマを撒き散らされたのもよくなかったそうです」
D「おまえなんかと仲良くないし、なんでそれがマイナス要因になるんだ?」
S「こないだ、病院長脅迫してたでしょ!草の者使って」
D「脅迫なんてしてない。「提案」をしただけだ」
S「横浜市の教育委員長みたいな見え透いた言い訳は止めてください!」
D「ま、人生いろいろだよ」
S「興味ないのが露骨な、超一般的な慰め方は止めてください」
D「なんだ、慰めてほしかったのか。まあ、心を込めて慰めてやってもよいが、そんなことしたってお前の人事がもとに戻るわけじゃあるまい」
S「まあ、そうですが、、、」
D「お前はまだ後期研修医はちゃんと指導してるじゃないか。いいんだよ。「人生いろいろ」は本当だ。別に今の院長だって、未来永劫ここで院長してるわけじゃない。お前だって未来永劫、ここでペイペイの指導医しているとも限らん。いずれにしても、一つだけわかっていることがある。長期戦に持ち込めば、院長よりもお前のほうが勝つ確率は遥かに高い」
S「また、そういう一瞬説得力のある詭弁を、、、」
D「本当だろ。いずれにしても、ここで落ち込んでても仕方がない。下を向くな。顔を上げろ、地べたに希望は転がってないぞ」
S「なんですか、それ?」
D「名作「ZETMAN」の名台詞だ~」
第63回「幸せなふりをしよう」その1 終わり
続く。
この物語はフィクションであり、DとSもネポティズムな院長も、架空の存在です。
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