D「いいか、多くの人が勘違いしてるが、とくに医者は勘違いしてるが、インシデント・レポートは「始末書」じゃない」
S「あ~~~、そう言えば」
D「な、インシデントを上げること「そのもの」がなにか、謝罪の意図を暗示させてるだろ。どことは言わんが、酷い大学病院になると、インシデント・レポートに反省点を書く欄があるんだぞ。反省させたら始末書に決まってるじゃないか。始末書を書かされると思うから、医者は躊躇するんだ。そんなもの、書かなくてよいなら書きたくないと思うのが当然の人の情だろ?だから、医者のインシデント提出数はどこの病院も低いんだよ」
S「そうですねえ」
D「インシデントが上がらなければ、患者の急変の原因は分析されない。分析されない急変は「わからないまま」だ。わからないままでいれば、次回に似たような状況が発生した時に上手に対応できない。あるいは似たような状況を起こさないようにするための防止策も思いつかない。ただ、空虚で実効性のない「もうしわけございません、二度とこんなことは起こしません」というスローガンを唱えるだけで終わりだ。分析しなかったら、絶対に二度目が起きるに決まってんだろうが!」
S「確かに。まあ、病院って失敗から学ぶ姿勢が足りないところはありますよね」
D「基本的に「間違えない」ことが前提になってるからな。官僚と考え方は同じだよ。「間違えるかもしれない」を前提に考えるのが、インシデント・レポートの肝だ」
S「なるほど」
D「よく、PDCAサイクルを回せっていうじゃない♪」
S「いつのギャグですか」
D「だけど、問題点を抽出し、分析し、改善する習慣を持たない日本の病院においては、PDCAは空言に過ぎない。ただ、なんかよく回らないものを回しているのにすぎない。エンドトキシン吸着療法(PMX)と同じだ!」
S「また、そんな恐ろしいことを~」
D「とにかく、患者の急変があれば、必ずインシデントを上げろ。始末書的な反省を書く必要はない。とにかくいつどこで誰に何が起きたのか、それだけを簡潔に書いて報告させればいいんだ。分析するのは医療安全のチームがやることだ。判断するのもそっちだ。現場の人間は判断する必要はない。とにかく、すぐにインシデントを上げればいいんだ」
S「はい」
D「だから、インシデントを上げるフォームはできるだけ簡潔にするのが常識だ。たいていの病院はたくさん書かせすぎる。医療機能評価の「机上の空論」をひな形にしてるからだ。あれではいつまでたっても病院は安全にならん。単に、機能評価で合格してしゃんしゃんになるだけだ~」
S「VXガスにご注意を〜〜」
第60回「インシデントは積極的に」その2 終わり
続く。
この物語はフィクションであり、DとSも架空の指導医です。
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