S「D先生、先日の患者が急変したケースですが、結局医療安全の審議で、研修医の医療ミスと判断されたそうです。今日、病院長の記者会見ですよ。大事(おおごと)になりましたね」
D「ああ、あれか。ひどい話だが、安心しろ。院長は研修医を守ってくれるはずだ」
S「そうなんですか?確かに、若い研修医がこんなところでキャリアに傷がつくのは気の毒ですよね。精神的なショックで職場に顔も出せてないみたいですよ」
D「そっちも心配すんな。いずれ問題は解決する。ところで、なんでこんなに話が大事になったか、お前、理由がわかるか?」
S「ええっと、それは医療安全の会議で今回のケースが医療過誤疑いと認定されたせいじゃないでしょうか。本来であれば3時間かけてゆっくり落とす抗菌薬を、1時間あまりで落としてしまったわけですから。研修医の過失は免れないと思いますね」
D「じゃ、聞くが、なぜ研修医は点滴薬の投与時間を間違えたんだろう」
S「医学知識が足りないからじゃないでしょうか」
D「では、さらに聞くが、知識が十分にある研修医って形容矛盾だと思わないか?知識やスキルが足りないからこその研修医だろ?知識が十分にある研修医は、それは研修医ではなくて指導医と呼ぶべきじゃないのか?」
S「え~~なんか、屁理屈っぽく聞こえますが~」
D「答えろ。知識が十分にある研修医は形容矛盾ではないのか?」
S「うーん、たしかにそう言われてみれば、形容矛盾だと思います」
D「だろ。研修医に知識がないのは当たり前だ。だから、あいつら、研修医やってんだから。ということは、研修医が知識がないのが悪かった、という医療安全チームの結論は間違っている。それは結論ではなく、前提だ。知識がない研修医が適当に薬を出すようなシステムに欠陥があるんだ。ダブルチェックを効かせなかったナースや薬剤師との連携、指導医の指導や見守り、研修医がオーダーできる内容に関する電子カルテその他のチェック機構。要するに病院全体のシステムの失調が今回の事故の根幹の原因(root cause)だ!その根幹の原因を分析、看破できなかったうちの病院の医療安全チームがヘッポコだったってことだ。「コト」の問題をすぐに「ヒト」の問題にして、糾弾、処罰すればよいと考えている、頭悪い系の集団だ!」
S「いや、そこまで言わんでも、、、」
D「頭悪い系の集団だ!繰り返しとくわい!こうやって本当の事故の原因は有耶無耶にされ、研修医は可哀想にトカゲのしっぽ切り的に捨てられ、そして無反省な病院は同じようなミスを繰り返すんだ」
S「確かに、そのような構造的な改善の欠如は困りますね」
第61回「絶対に研修医は守り抜け」その1 終わり
続く。
この物語はフィクションであり、DとSも架空の指導医です。
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