注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
小児の肺高血圧症は、発育に影響を与えるか?
肺高血圧症(PAH)は進行性の病気であり、現在根治的な治療法は確立していない。小児期に発症すると、内服もしくは持続点滴で進行を抑制し、すべての治療に反応しなくなると、肺移植の適応となる。主要症状には、運動能低下および易疲労性がある。(1)小児期にPAHを発症すると、運動能が低下すること、小児期から投薬を行うことなど、なんらかの原因で発育に影響を与えるのではないかと疑問に思い、考察することにした。
まず、PAHの患者の発育については、Ploegstra MJらによって研究されている。19カ国61施設の601人のPAHの患者を平均2.9年間追跡し、身長とBMIについてWHOの成長曲線でのZ-scoreで後ろ向きに評価した。それによると、PAH患者の場合、研究開始時点の身長は基準値に対してのZ-scoreは低かった(−0.81, 95% CI −0.93 to −0.69; p<0.0001)。また体重に関してもZ-scoreは低かった (−0.12, 95% CI−0.25 to −0.01; p=0.047) 。原因別でみると、特に特発性PAHや遺伝性PAHである5歳以下の患者や、先天性心疾患によるPAHである全年齢の患者で、身長に関するZ-scoreが小さくなった。しかし、追跡期間中の身長やBMIの増減に関しては、Z-scoreが上昇した子もいれば、下降した子もおり、統計上は特に有意差はなかった(身長:p=0.57体重:p=0.48)(2)。患者の発育について研究されたものはpub medで“growth pulmonary hypertension””height pulmonary hypertension”というキーワードで検索をした限りでは、この論文以外に見つけることができなかった。
PAHには、特発性だけではなく、さまざまな要因で発症しているものがあり、低身長や低体重が肺高血圧症そのものによるものか、要因によるものかは、まだ区別がつかない。今回、身長、BMIに関して、確かにZ-scoreが低く、基準よりを下回っているという結果が示された。しかし、統計を取り始めてからの身長やBMIのZ-scoreの推移は変わらないことから、身長もBMIも年齢のわりに低いが、成長率は基準と変わらないという状態であるということがいえるのではないかと思う。
- Nelson textbook of Pediatrics
- Ploegstra MJ et al. Growth in children with pulmonary arterial hypertension: a longitudinal retrospective multideity study. Lancet Respiratory Medicine 2016 Apr;4(4):281-90
寸評:言葉の使い回しはもう一つでしたが、とにかくテーマ設定が秀逸でした。非常に患者さんに寄り添っていて、レポートとしてはよくできたと思いました。ご苦労様。
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