注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
HIV感染者の予後に喫煙は影響するか?
喫煙は動脈硬化や肺癌など様々な疾患のリスクファクターとなる。
ARTの確立によってHIV感染者の予後が改善し、普段の生活の中でコントロールしなければならない病気となった現在において喫煙がHIV陽性者に与える影響を知りたいと思い、このテーマを設定した。
Marie Hellebergらは1995~2010年にかけてデンマークで集められたHIV患者のデータベースを用い、2921人のHIV患者と10642人のコントロール群を喫煙者※1と非喫煙者※2に分けた後ろ向きコホート研究を行っている。この研究によれば調査期間中の死亡率※3はHIV陽性喫煙者で23.7%(Cl:20.2-27.7) HIV陽性非喫煙者6.1%(Cl:4.2-8.7)とHIV陽性非喫煙者で優位に高かった。
一般に喫煙との因果関係が高いとされている心血管疾患と癌による死亡リスク比※4に関してはHIV陽性喫煙者群vs HIV陽性非喫煙者群において、それぞれ4.3(Cl:1.4-13.1) 、3.5(Cl:1.6-7.8)とやはり両方ともにHIV陽性喫煙者群が高リスクであった。
さらに、HIVに関連した疾患での死亡率も喫煙群5.2%(Cl:3.7-7.3)、非喫煙群で1.4%(Cl:0.7-3.0)と喫煙群で優位に高リスクであった。
コントロール群における喫煙のpopulation-attributable risk※5(PAR) は33.4%であるのに対し、HIV患者群における喫煙のPARは61.5%である。非喫煙者全体に対するHIVのPARが0.3%であることに比べるとHIV患者にとって喫煙がいかに有害であるかがわかる。
またHIV陽性者の死亡リスク因子としてHIV陽性と診断された年齢、飲酒歴、BMI、CD4の値、ウイルス量などを調査した結果喫煙によるリスクが最も高く、喫煙とその他の因子の間に相互関係は認められなかった。
この研究の問題点としては、コントロール群を保健衛生研究の参加者としたことによって非HIV群の死亡率が少なく見積もられていると考えられ、これによってHIV陽性者の死亡率が過大に評価されていること、フォローアップ期間の中央値がHIV陽性者群で4.2年、コントロール群で4.1年と短いことなどが挙げられる。
以上より喫煙はHIV陽性患者の予後を悪化させることが分かった。またHIV患者においてはHIV陰性者以上に喫煙のリスクが大きいため、禁煙指導が重要だと考えられる。
参考文献
Mortality Attributable to Smoking Among HIV-1–Infected Individuals: A Nationwide, Population-Based Cohort Study
Clinical Infectious Diseases 2013;56(5):727–34
注釈
※1現在喫煙を週一回以上のペースで喫煙している群
※2喫煙歴が無い群
※3死亡率(MR)=1000person yearsあたりの死亡者の数
※4死亡リスク比=暴露群のMR /非暴露群のMR
HIV陽性喫煙者群vs HIV陽性非喫煙者群の死亡リスク比は性別、出身、性的嗜好、HIVと診断された年齢、BMI、飲酒歴、CD4値、ウイルス量をPoisson regression analysesにて調整を行った後算出された
※5population-attributable risk=Pe(RRe-1)/1+Pe(RRe-1)
Pe:暴露された人数の群全体に対する比率
RRe:暴露群vs非暴露群における死亡リスク比
寸評:良い出来です。最後のlimitationの議論などとても優れていると思いました。
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