注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
カンジダ血症の患者に対し、眼内炎の有無を見るための眼底検査は繰り返し行うべきか?
カンジダ血症は網膜・脈絡膜への血行性播種によって内因性の眼内炎を起こすことがある。未治療では失明することもある1)。Clinical Practice Guideline for the Management of Candidiasis:2016 Update by the Infectious Diseases Society of Americaは「すべてのカンジダ血症患者に対し、散瞳眼底検査を実施するべきである」としている。さらに、好中球減少患者でない場合は治療開始後1週間以内に実施すること、好中球減少患者であれば好中球数回復後まで検査を遅らせることを推奨している。しかし複数回行うべきとの記述はなかった。そこで、眼底検査を治療初期に1回実施するだけでは眼内炎を見逃してしまうリスクがあるのではないかと思い、複数回行うべきなのか調べることにした。文献検索はcandida, candidemia, endophthalmitisをキーワードとし、Pubmedを用いて行った。
Oude Lashofらは、血液培養でカンジダが陽性である非好中球減少患者370名を2:1に分けた。前者はボリコナゾール で治療し、後者はアムホテリシンB投与後にフルコナゾールで治療した。散瞳眼底検査は、治療開始前、開始後7日目、治療終了後2週間目、6週間目は必ず行い、他にも随時複数回行った。 結果、眼底検査で所見が見つかったのは60人で、眼内炎の可能性が高かったのが6人、網脈絡膜炎の可能性が高かったのが34人、網脈絡膜炎が疑われたのが20人だった。60人の内49人が治療開始前、11人が治療中に見つかった。この11人のうち、眼内炎の可能性が高かった1人は治療開始後18日目に見つかり、網脈絡膜炎の可能性が高かった6人は治療開始後8日以内に見つかった。網脈絡膜炎が疑われたのは4人で、内2人が治療開始後2週間以内、残り2人は2週間以降に見つかった。 また、眼病変のあった患者のカンジダ血症持続期間(median, 4days; range, 1-18days)は眼病変のなかった患者の持続期間(median, 3 days; range, 1-26days; log rank, P=.026)に比べ有意に長かった。3)
R.Krishnaらは、31名の血液培養でカンジダが陽性である患者に対し散瞳眼底検査を繰り返し行った。カンジダ血症判明後72時間以内に初回の眼底検査を行い、その後1、2、4、12、24週間後にも行った。その結果、8人が網脈絡膜炎と診断され、うち3人は初回検査では病変がなかったが、1人は1週間後、残りの2人は2週間後の検査で病変が見つかった。4)
これらの文献から、治療開始後1週間以内に1回眼底検査をするだけでは全てのカンジダ眼内炎・網脈絡膜炎を発見できるわけではないことがわかった。初回検査で病変がなくとも、眼底を再検することで眼病変を見逃すリスクを下げることができると考える。特に、カンジダ血症の持続期間が長い場合には再検を考慮する方が良いかもしれない。
1)UptoDate Overview of Candida infections
2) Peter G. Pappas, Carol A. Kauffman, et al. Clinical Practice Guideline for the Management of Candidiasis: 2016 Update by the Infectious Diseases Society of America- Clin Infect Dis (2015) 62 (4): e1-e50.
3)A.M. Oude Lashof, A. Rothova, et al. Ocular manifestations of candidemia- Clin Infect Dis, Volume 53, 2011, pp. 262–268
4)R. Krishna, D. Amuh, et al. Should all patients with candidemia have an ophthalmic examination to rule out ocular candidiasis?- Eye, Volume 14, 2000, pp. 30–34
寸評:ご苦労様でした。ほぼ非の打ち所がない優れたレポートだと思います。見事です。
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