S「D先生、聞いてくださいよ。うちの初期研修医が中心静脈ライン入れたいってうるさいんですよ」
D「いいじゃないか、そういう積極的な研修医がいるのはなによりだ。ぜひやらせてあげたまえ」
S「できるわけないじゃないですか。やったことないんだから」
D「やらなきゃ、いつまでたったってできるようにならないじゃないか」
S「ま、そうですけど。最近は、医療過誤だの医療訴訟だのうるさいですからね。研修医を守ってあげるのも、僕達の責務ですよ」
D「そうやって、初期研修医の時に手技をさせずに研修を終わり、後期研修以降でスーパーバイズもないままたくさんの手技をやっつけ仕事でさせられ、事故が起きたらどうするんだ?S先生は責任を取らなくていいだけの話で、本人にとっては実に気の毒な話じゃないか」
S「ぐぐ、またしてもD先生の「暴論の中に突然正論攻撃が」、、、」
D「だれが暴論じゃ。わしの話は99%が正論でできとるわい」
S「でも、手技って難しいですよね。やらなければできるようにならない。できるようにならないと、やらせられない」
D「でも、そんなの医療の全てのモダリティーがそうじゃないか。手技を特権化しちゃいかん。患者の診察だって、外来診療だって、薬のオーダーだってみんなそうだ。「やらなければできるようにならない。できるようにならないと、やらせられない」」
S「まあ、言われてみれば」
D「本当は医学生の時から手技は教えるべきなんだよ。世界各国でも日本の医学生はおそらく「一番役に立たない」医学生だ。学生実習の時に具体的に患者を診察せず、具体的な検査や薬のオーダーをせず、そして手技をしない。ただ横について見てるだけで技術がつく領域なんてない。音を聞いてればピアノがひけるようになるか?ピアノが上手になりたかったら、ピアノをひくんだよ。それ以外に方法はない」
S「でも、ピアノならひいても事故は起きませんが、未熟な研修医が手技をやれば事故が起きます」
D「昔はSee one, do one, teach oneなんてまことしやかに言われてたけど、危うかったな。患者さんも寛容だったから、そういう乱暴なやり方でも許してもらえた。今は許されないけどね」
S「そうですねえ」
D「だけど、基本的には「見せる」「やらせる」「教えさせる」のシークエンスだけは変わらない。そして何回見せるべきか、何回やらせるべきか、は各人の成熟度、熟達度によって変わる」
S「教えるより、自分でやっちゃったほうが楽なんですけどねえ」
D「それは根本的な間違いだよ、頭の回転が早くて記憶力が良いだけで、その実、思考力にはかなりビハインドなS先生~」
S「だから、なんでそんなコテンパンに言われなきゃ」
第31回「手技はできるだけさせてあげよう」その1 終わり
続く。
この物語はフィクションであり、DとSも架空の指導医です。
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