S「D先生、先日教えていただいたテクを使って、研修医に話を聞くようにしました。なんか、インタラクティブになってみんなが生き生きしてきたような気がします」
D「そうだろ?レクチャーは一方通行で教育効果が低い、なんて批判があるが、それは質の低いレクチャーだからなんだ。質が高いレクチャーだったら立派にインタラクティブにできる。1対1でも、1対10でも、1対100でも、1対1000でもインタラクティブにできる」
S「1対1000はちょっと大げさなんじゃないんですか?」
D「そんなことはない。別に、聴衆一人ひとりに話を聞く必要はないんだ。誰か指名して、答えてもらう。アイコンタクトをみんなととる。こういう工夫だけで、臨場感は盛り上がり、「参加してる」感が醸造され、そしてレクチャーはインタラクティブにできる」
S「なんか、ライブみたいですね」
D「その通り。教育は1種のライブなんだよ。東京ドームを満員にするようなビッグアーティストは、何万という客を相手にインタラクティブにセッションを繰り広げるだろ。あれと一緒だ」
S「なるほどねえ」
D「テレビのバラエティ番組あるだろ。内容はクダラナイから俺は見ないけど、一つだけ長所がある。それは、あれだけクダラナイ内容にも関わらず、視聴者を最後まで飽きさせないトークのスキルだ。あれも1種のインタラクティブなのだよ。その証拠に、多くの人がテレビに向かってしゃべってるだろ」
S「ああ、うちのオカンとかよくやってますねえ。「ええ~、その発言なしやろ」とかブラウン管に向かって叫んでますよ」
D「君、関西出身だったの?それにブラウン管は流石に死語やろ」
S「先生も関西ですか?」
D「俺はノリで合わせてみただけだ」
S「まあ、たしかに一方通行に見えるレクチャーでもいくらでもインタラクティブにできるってことは分かりました」
D「俺はご存知のように、基本的にパワーポイントを使わない。別に使ってもいいんだけど、パワポを使うと構成が決まっちゃってインタラクティブにしにくいんだ。ひどいのになると、スクリーンの方を向いて意味もなくレーザーポインターを振り回して、聴衆の方にお尻を向けている。あれは全然、いけてない」
S「まあ、そうですね。パワポに凝りすぎて、トークがイマイチってのはよくある話ですね」
D「そうだよ。俺はレクチャーにパワポは使わないけど、練習はちゃんとやる。そのひどういう話をするかおさらいをするんだ。ほとんどの人はパワポの準備に時間をかけるくせに、肝心の自分の話の練習をしない。いわば、カキワリに一所懸命になって演技の練習をしない演劇みたいなものだ」
S「先生、パワポ派から怨嗟のクレームが来ますから、そのへんで」
D「ところでS先生、たしかに研修医の話を聞くようになったのは前進だったけど、もっと良くする方法もあるんだよ」
S「え?それってなんですか?」
第29回「答えを教えるな、質問しよう」その1 終わり
続く。
この物語はフィクションであり、DとSも架空の指導医です。
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