D「S先生、テーブルカンファ、お疲れさん」
S「ああ、D先生、見てたんですか。ぼくのティーチングもなかなかなもんでしょう。ちゃんと各疾患や治療についてスラスラっと説明していたと思います。ちょっとかっこよくありませんでした?」
D「いや全然。S先生をかっこよく思ったことは、まだ一度もない」
S「またまたあ、たしかにぼくは先生よりも若いし、背も高いし、痩せてるし、眼鏡もかけてないし、髪は黒々とフサフサで、清潔かつファッションセンスもよく、ルックスではうちの指導医トップクラスかもしれませんが、すねなくてもいいですよ」
D「S先生はそういうセリフを言うキャラに設定されてないはずだ」
S「作者の都合でキャラの都合なんてコロコロ変わるもんです」
D「どこの業界の内輪話を暴露しとるんだ。それに今のセリフでS先生は確実に背が低い、太ってる、メガネ、ハゲ、不潔、ファッション音痴たちの反感を買ったぞ」
S「げげ。失敗した~。好感度ナンバーワンを目指すはずが、ついD先生の毒気にやられました」
D「そのしょうゆ顔でサラリとイヤミを言うなよ」
S「しょうゆ顔ってなんですか」
D「あのね、君のティーチングは確かに立て板に水の朗々たるものだったよ。でも、研修医はそれを黙って聞いてるだけじゃなかったかい。本当に彼らは君のレクチャー、理解してたと思う?」
S「もちろん、してたと思いますよ。内容は申し分なかったし、ぼくは滑舌も良いし、声だって悪くない」
D「キャラがだんだん壊れてきてるがな。初登場した頃の「こち亀」の中川みたいになってるぞ」
S「そういえば、D先生はちょっと両津勘吉キャラですよね。ルックスも、、、」
D「話を混ぜっかえすな。あのな、朗々たる名演説的レクチャーって案外、アタマに残らないんだぞ」
S「え、そうなんですか?」
D「そう、ちょうど高速道路をスイスイ走るみたいな感じで、ひっかからないんだよ。上手なレクチャーは、うまく「不協和音」を混ぜる必要がある」
S「ふーむ、なるほど」
D「それに、レクチャーは一方的にしゃべるだけじゃ、だめだ。相手の話も訊かなきゃ」
S「え?レクチャーなのに話を聞くんですか?」
D「そうだよ。レクチャーだけじゃない。研修医教育で一番大事なのは「相手の話を聞く」ことだ。相手に話をすることじゃない」
S「え~」
D「疾患概念について、診断について、治療について、必ず相手の見解を聞く。そうすれば教える対象の知識や理解度が分かる。論理的思考能力や説明能力も推し量れる。それが分かったら、相手のレベルに合わせ、足りないところに光をあて、わかってるところは端折りながら教えられる。これぞメリハリのついたティーチングだ」
S「なるほど」
D「質問されるとわかっていれば、聞く方も真剣になる。気を抜いたり、居眠りすると大変なことになるからだ。丁々発止の、ほどよい緊張感が場の雰囲気も盛り上げる」
S「そうなんですね。確かに、ぼくの場合は一方的にしゃべりすぎだったかもしれません」
D「それにな、「相手の話を聞く」ティーチングは他にも効能があるんだぞ」
S「え?」
第27回「まずは考えさせよう、そして意見を聞こう」その1 終わり
続く。
この物語はフィクションであり、DとSも架空の指導医です。
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